ビルの恋
個室の居心地があまりに良く、つい、終電ぎりぎりまでいてしまった。

B.C.SquareTokyo前の芝生を突っ切り、地下鉄の入口へ急ぐ。

「終電大丈夫?」

伊坂君が息を切らしながら聞く。

「乗り継ぎ急げば何とか」

私は走りながら答える。

「俺は隣駅。
良かったら、泊まっていく?」

伊坂君がさらっと言った。

思わず立ち止まる。

予想外のことで、言葉が出ない。

伊坂君は私の様子に、まずいことを言ったと思ったのか、

「何もしないから」

と付け足す。

男と女が二人で寝て、何もないなんてあるわけない。

思わず笑ってしまった。

「伊坂君でも、そういう矛盾したこと言うんだね。
今日はいい。でも誘ってくれてありがと」

嬉しかった。
酔いのせいか、好意からかはわからないけど、少なくとも恋愛対象外ではなさそうだ。

再び早足で地下鉄入口を目指す。

エスカレーターを駆け下り、

今度は、ホームへの階段を駆け上がる。

まだ人が沢山いる。

良かった、間に合った。

「間に合ったね」
伊坂君は息を切らしながら言う。

「うん」
私も息が上がっている。

地下鉄がホームに入ってくる。

「じゃあ」

そういって伊坂君の顔を見ようと振り返ると。

突然、キスされた。

一瞬の沈黙。

「・・・ごめん」

伊坂君は自分のしたことに驚いた様子だ。

キスの意味を確かめたかったが、地下鉄のドアが開いたので、急いで乗る。

車窓から、口に手を当てて立っている伊坂君が見えた。
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