ビルの恋
堺さんがカクテルを作っている間、店内を見渡す。
相変わらず、綺麗な夜景だ。

「どうぞ」

堺さんがベリーニをコースターに置き、言った。

「お客様のプライベートに立ち入ってはいけないのですが。
先日は私も口を挟みたくなりました」

「なんて?」

「二年も離れるなんてとんでもない、そこ、プロポーズするところだろう」

堺さんからこんな発言が出るとは、意外だ。
思わず、笑ってしまう。

「でも私、いたって普通の女なので。伊坂君からしたら物足りないんだと思います」

ベリーニを飲む。

「普通でいいじゃないですか。お二人はとてもお似合いですよ。
何より、伊坂さんが楽しそうにされてます。
同僚の方たちともたまに見えますが、もっとクールな感じで、夏堀さんといる時とは
全然違いますよ」

「そうですか」

「特別優秀な方のようですし、ご自分に自信があるんでしょうけどね・・・
離れてしまったら、後悔するのは伊坂さんの方だと思います」

「どうしてそう思うんですか?」

「何と申しましょうか。長年商売で培ってきた勘、ですかね」

話し終わったところで、堺さんが受付の方を見て会釈した。

「いらっしゃいませ、お待ちしておりました」

伊坂君、登場だ。
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