明日も歌う あなたのために
気付いたら、階段を登っていた。
エレベーターは高確率で人に会う。
だから意外と使われない階段を使った。
点滴棒を自分で抱えて、
休み休みで少しずつ登っていく。
それで点滴が落ちなくなったのか、
輸液ポンプのアラームが
鳴ってしまったけれど、
いつも佐原さんを見ていたから、
どのボタンでアラームが止まるのか、
なんとなく分かっていたので
簡単に止められた。
なんとなくだけど昔から、
病院内では極力
人の迷惑にならないように過ごしていた。
必要以上にナースコールも
押さないようにしていたし、
万が一転倒して
迷惑かけるくらいならと思って、
病室からもあまり出なかった。
そんな俺が、今何をしているんだか。
龍と病室で歌った時もだ。
あんなん確実に周りに迷惑だが、
そんなことどうでもいいってくらい
夢中だった。
そして今も………。
やっぱり俺は歌のこととなると、
他のものが見えなくなる。
辿りついたのは屋上だった。
この時間だし、元から殺風景な場所だから
誰も居ない。
日暮れの肌寒い風が、
髪を撫で撫でて、薄い入院着を
すり抜けていく。
あがった息を飲み込むように整えると、
俺は深く息を吸った──────。