愛を込めて極北
 「あなたも知ってるわよね。楠木は就職活動中に、19世紀に起こった英国フランクリン隊の行方不明事件に興味を持って。ほどなくして行方を断ったとされるカナダ極北諸島・キングウィリアム島に出向き始めた」


 「はい」


 「毎年毎年、遠路はるばる極北まで出かけて。帰国して次の出発まではひたすらバイトで旅行資金を稼いで」


 初期の頃はまだスポンサーもほとんどついていなかったため、独力でお金を稼いだと語っていた。


 「だけど何回目かの旅の際、遭難事故を起こしちゃって。やむなく旅を中止して、救助隊を呼ぶ羽目になったのよね」


 それも聞いている。


 極北への旅を始めて、数年目のこと。


 流氷の上を歩き、フランクリンの船が沈んだ地点目指して歩いていた時のことだったらしい。


 予想外に氷が溶け始め、陸地に戻れなくなってしまった。


 そのままでは氷の欠片に乗ったまま漂流が始まるか、夏が到来し氷が完全に溶けてしまうと、フランクリンの船同様海底に沈むしかなくなる。


 苦渋の決断で楠木は、衛星電話で救助隊を呼んだのだった。
< 119 / 251 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop