愛を込めて極北
思いがけぬ暴露
***


 四月の半ば。


 晴れていて、気温は平年よりもかなり高め、最高気温は今年一番を記録していた。


 初夏の気候に近く、半袖になりたくなるほどだった。


 少し事務所の窓を開けて、春の空気を吸い込む。


 事務所の周りは緑に囲まれているため、草や木の匂いで十分に季節を感じられる。


 「じゃ桜坂さん、お弁当買ってきます」


 「お願い」


 一緒に当番をしていた男子大学生が、お昼ご飯のお弁当を買いに出かけた。


 町外れのため周囲には飲食店もあまりなく、コンビニが一軒あるのみ。


 そこで我々のお弁当、そして楠木の分も調達してくる。


 ……今日は楠木が在宅だった。


 すでに百合さんは帰京したものの、楠木に会いたい気分ではなかった。


 あの夜目撃したラブシーン。


 楠木に会うたびに、嫌でも思い出してしまう。


 できればその日のうちに辞めたかったのだけど、やり残しの業務があるため自重。


 一段落するまでは我慢我慢……と言い聞かせ、あともうちょっとは事務所通いを続けるつもり。


 でも、あと二か月を待たずして、楠木は今年も極北へと旅立っていく。


 直接辞めるって伝えると、理由をあれこれ詮索されるだろうし。


 時間のあるタイミングだったら送別会だ何だって騒ぎになるので、楠木不在のタイミングで辞めて、その後音信不通になろうと心に決めていた。
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