愛を込めて極北
 だから、それまでの辛抱……。


 ここでの数々の初めての経験や、日常生活の中では知り合うことのなかったような人たちとの出会い。


 様々な貴重な体験や思い出を断ち切るのは、ちょっと心苦しくもあったけれど……。


 ピンポーン。


 「はいっ」


 玄関のベルが鳴った。


 こんな時間の訪問者は、宅配業者か速達だろう。


 「速達です」


 郵便配達員から、大きな封筒を受け取る。


 楠木が面識のある、大学の教授。


 地球温暖化に関する論文を、速達で送ってもらう約束をしたって聞いていた。


 徐々に出発が近付き、現地の気候や氷の状況に関する情報収集に余念がない。


 確かに命にかかわることだから、どんなに慎重すぎても慎重になりすぎることはない……。


 「楠木さん」


 さっきまで楠木も事務室内にいたのだけど、DVDを探すと言ってリビング兼ダイニングルームに行ったきり戻って来ない。


 そこで呼びに行ったところ、ダイニングテーブルに突っ伏す形で昼寝をしていた。
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