愛しの残念眼鏡王子
「俺も……今、上がったから、そこまで送るねっ……」

「え、でも――」


これからみんなで飲み会ですよね?

そう言おうとしたけれど、専務にニッコリ微笑まれてしまっては言葉が続かなかった。


どうして急に送るなんて言い出したのかな? 今までそんなことなかったのに。

不思議に思いながらも大きく深呼吸した後、先に歩き出した専務の後をついていく。


歩道にはポツリポツリと規則正しい間隔で街灯があるだけ。

車の往来もなく、辺りはシンと静まり返っている。


そんな中をなぜか専務と肩を並べて歩いているなんて……なんか、変な感じがする。

専務の足取りは遅くて、明らかに私の歩幅に合わせてくれているのが分かる。


専務らしい優しさに、心の奥があたたかくなってしまった時、彼はわざとらしく咳払いをした後、ぎこちなく言葉を紡いでいった。
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