愛しの残念眼鏡王子
「そうだよな、美月ちゃんがいなくなった後の専務は、見ていて可哀想になるくらい落ち込んでいたもんな」


「そりゃなるだろ。婚約破棄から三年後、やっと新しい恋ができたというのに、あっという間に御曹司に奪われていっちまったんだから」


え……婚約破棄? 奪われた?

初めて聞く話に、頭がついていけない。


混乱する頭。


するとずっと隣で話を聞いていた専務は耐え切れなくなったように、手にしていたかごを下に置くと、「ごめんっ」と言い残し、走り去っていく。

「あ、専務っ!?」

「……えっ! 専務……光希ちゃんっ!?」


私と専務の声を聞き、慌てて駆け寄ってきた松田さんに、手にしていたお茶菓子を押しつける形で渡した。

そして驚きポカンとしている松田さんに、慌てて言った。


「すみません、お茶の準備できていますので後はお願いします!」

「準備できているって……あ、ちょっと光希ちゃん!?」

背後から聞こえてくる松田さんを振り返り見ることなく、専務の後を追い掛ける。
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