愛しの残念眼鏡王子
正直、いまだに頭の中は混乱しているし、話が見えてこない。

でも直感的に専務を追い掛けないとって思ってしまった。


走り去っていく専務の背中が、泣いているように見えてしまったから。

走って敷地内を探している最中、思い出してしまうのは、これまで専務が話してくれた言葉たち。


専務はすべてを話してくれなかったけれど、何度か思い当たる話をしてくれていたよね。

私と同じだって――。


それはつまり、専務も大切な人と幸せになれなかったってこと……?

それも、一度だけではなく二度も……。

専務の気持ちを思えば思うほど、胸は痛くなるばかり。


会ってなんて声をかけたらいいのかなんて分からない。

それでも、専務の顔が見たかった。

そんな気持ちとは裏腹に、一向に専務の姿を見つけることができない。


広い敷地内だけれど、くまなく探したつもりだ。

それでも見つからないなんて。


足を止め、上がってしまった呼吸を落ち着かせている時、ふとある場所が頭に浮かんだ。

もしかして専務、あそこにいるのかもしれない。一歩踏み出した足は、躊躇してしまい止まってしまう。
だって今は勤務時間内。

それなのに会社の敷地内を出ることに、躊躇ってしまったから。

でも、今は専務のことが心配だ。


後で怒られる覚悟で私は会社を後にした。
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