愛しの残念眼鏡王子
そっとユウを抱き寄せ、話を続けた。


「でも当時の私は辛くて。同じ会社にいるとどうしても噂で彼のことを聞いてしまいますし、ひとりでユウも一緒に住める賃貸を探すのも一苦労で。……それですべてを棄てて逃げてきたんです。ユウと一緒に」


今でもやっぱり、彼と別れたばかりのことを思い出すと胸が痛んでしまう。

「ユウと一緒に、誰も私のことを知らない場所で、一から始めたかったんです。……静かに暮らしたかった」

そうだ、ここへ来た頃はそう思っていた。


「恋なんて二度としたくないって思っていました。もう二度と、あんな辛い思いをしたくなかったから。……でも恋って理窟じゃないですよね。現に私は専務のことを好きになってしまったんですから」


再び「好き」って言葉を口にすると、専務の顔はほんのり赤く染まっていく。


少しは私の気持ち、信じてくれたのかな?

ならもっとしっかり、信じて欲しい。

専務を見据え、視線を逸らすことなく伝えていった。
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