狼陛下と仮初めの王妃


牧場の娘であるコレットの朝はいつも早く、夜明けとともに鳴く朝鳥の声で目覚めるのが常だ。

簡単に部屋の掃除をし、そのあと手籠を持って鶏小屋に行って生みたての卵を回収する。

牧場の仕事の中でも、コレットは卵回収の作業が一番好きだった。

鶏小屋の寝床に敷き詰められている干し草の中に、ころんと卵が転がっていると、宝物を見つけたような気分になれる。

そしてしぼりたてのミルクと一緒に、アリスが作ってくれるふわふわオムレツを毎朝食べるのが楽しみだった。


コレットはベッドから下りて、カーテンを開いてみた。

もうすっかり日が昇り切っていて明るく、見下ろせば、白い服を着た人たちがこんもりと茂る木の葉の下を歩いているのが見える。


「騎士団がお城の中を見回りしているのかしら」


ニック夫妻も、今頃は普段通りに牧場の仕事を始めている頃だ。

ニックの腰は、少しはよくなっただろうか。

働き手である自分がいなくなって、さぞかし大変だろう。

コレットは遠くにそびえる山を眺め、ふたりの心配をするのだった。


ふいに扉を叩く音が聞こえ、応答するとリンダが顔をのぞかせた。


「おはようございます。良かったですわ~。もう起きていらっしゃったんですね」


リンダはいそいそと部屋の中へ入るとすぐにクローゼットの扉を開け、ミントブルーのドレスを取り出してにっこり笑った。


「さあ、早くお支度をいたしましょうか。サヴァル陛下が朝食のお席でお待ちでございます」

「え!?まさか……陛下と一緒に朝ごはんを食べるんですか?」

「もちろんでございますよ。さあ、急ぎましょう」


コレットの着ていたネグリジェは、リンダの手によってするりと脱がされた。

婚約者としての、生活の始まりである。


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