待ち人来たらずは恋のきざし


「リビングは間仕切りして部屋を造る事も出来るんだ。
和室にする事も可能だ。

部屋は景衣と俺で好きな方を決めて使おう?
決める時はじゃんけんにするか?くじにするか?」

「造りはほぼ同じみたいだし、住むなら私はどっちでも構わないですよ」

部屋に入る時の癖があるかも知れない。
行き慣れた方向とか、ドアの開く向きとかって案外大事かも。
そんなちょっとした事が、って事が、ストレスになったりもするから。

…。

「ねえ?」

「ん?」

「どうしてこんな時間に、勝手に見たり出来るの?」

鍵を預かるって出来ないでしょ?

「気に入った?どう?」

「いいと思う、だけど」

ちょっと話をずらされた気がする。
それにしても…ここって高く無いのかな、家賃。
二人で折半しても、…どうなんだろう。
…高いよね。

「エレベーターの事だよな。大丈夫そうか?」

「え?…あ。あ、うん。…そうね。
半分まで乗ってみたりとか、乗る階数を増やしたりして、徐々に慣れるようにしていけば、大丈夫かも」

「慣れるって言っても、それが強い負担になるなら止めよう。
家が苦になる場所になるようじゃ、住むべきじゃないからな。
何もマンションはここだけじゃないんだから。
納得の行く場所を探した方がいい」

そんな事言ったら、この男まで一階とか、下の方の階しか住めなくなってしまう。…一緒に住むならだ。

「私、多分、乗ってる時、エレベーターの不具合で閉じ込められたのを記憶しているからだと思うの。
だから閉鎖された狭い空間が恐くなったの。
また一瞬暗くなったらとか、想像しちゃうからだと思うの。だからなの」

「…そうか。恐い目に遭ったんだな。
この先も全く無いとは思えないから、余計心配で乗りたくないんだな…」

「うん…そんな感じ、ごめんなさい」

「謝る事ないよ。ガタンて揺れたりしたら、…落ちたりしやしないかって事も、考えたら心配になるもんな」

頷いた。

「んー、じゃあ、まだ、無理して一緒に住むのは止めよう、な?
というか、この部屋は没って事にするか…」

「…ここがいい」

「え?だけど、ここにしたら気持ちが塞ぐんじゃないのか?」

「少しずつ慣れるようにしていくからいいの。
いつまでも乗れないって言ってたら…、不便なままでは、他にも支障があるのは確かだし。
いつかは慣れていかなきゃいけなかったものだもの」

「いいか?景衣。想像して見ろ?
疲れて帰って来た時に、あぁ、また乗らなきゃって、心底溜め息が出るぞ?
住まなきゃ良かったって思う。
そうなると…元の部屋に帰るって言い兼ねない。

慣らそうと思っているなら、暫く俺の部屋に来るとかして、慣らしていけばいい。それからだ。
だから、無理せずまだ暫くはこのままでいよう」

「少し考えさせて。
あ、この部屋はまだ、直ぐ返事しなくても大丈夫?
借り手が直ぐついたら住めなくなっちゃうでしょ?
あ、貴方だけでも住んでおくってどう?
それで私が、リハビリしていく感じでここに時々来て…」

「部屋なら大丈夫だ。
だから焦らず今のままで大丈夫だ」

「そうなの?」

「うん、大丈夫なんだ」

まあ、中々こんな広い部屋、簡単に借りる人も居ないのかな。


「…景衣、今夜、泊まってけよ」

「あ、…はい」

部屋を出て鍵を掛け、またエレベーターに乗った。

「今度はさっきより半分だから、直ぐに着く。大丈夫だ」

私を抱きしめボタンを押した。

「はい…」

…はぁ、こうしているなら何の心配もなく乗れるのに。
駄目よね、そんな事思ってたら、進歩が無いんだった。この男に直ぐ甘えようとするんだから…。

あ、もっとギュッと抱き込められた。

「ま、これって防犯カメラには映ってるけどな」

「え゙っ、そうだったの?」

と言っても離れるのも難しいかな…とにかく着くまで…。

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