待ち人来たらずは恋のきざし


日曜には二人してマスクをして、エレベーターで部屋を行き来した。

「ねえ創君?この部屋は貴方の物なの?」

「そうだよ」

「貴方って何?」

「俺?俺は、病気の景衣でも容赦なく抱くエロい変人だけど?
変人より、むしろ今は変態って言った方がいいのか…。
熱っぽくて苦しそうな顔に、余計そそられたし」

「…もう。ゴホゴホ。いい。聞かない」

あ゙ー、熱がぶり返しそう。

「このマンションは、元々親父の所有だった物だ。生前贈与とかで俺が受け継いだだけだ。

俺は、有機野菜を使った料理を出す店のシェフ兼オーナーみたいなもんをしてる。
これでいいか?

あー、今までつき合った女性の人数とか知りたい?
身体だけの関係で抱いた女の人数とかも聞く?こっちは数えちゃいないけど」

「…もういいです。あと一つ」

「ん?」

「会ってから今まで、私に言ってくれた言葉は、全部本当でいいのよね?」

「ああ、何一つ誤魔化しは言ってないつもりだ。
いつも正直に言ってたつもりだ。
何か腑に落ちない事でもあったのか?」

「ううん…。だったら私の事、…好き?」

「…約束が違うなぁ」

「え?な、に…」

…約束?何?こんな状況になってるのに、好きじゃなくなったの?

「景衣はさっき、あと一つって言った。だからもう答えない」

「あ、そんな事…そんなの流れで言ってくれても…」

「何?」

「…何でも無いです。解りました。おっしゃる通りです」

「だけど、…」

顔を包まれた。
マスクをクイッて顎までずらされた。
自分のマスクもずらしている。

ん、…ふ、ん゙ん゙。…苦しい、息がし辛いんだから、もう。
鼻が通ってないから…苦しいのー。

「…ん、こういう事だ。…むくれるなよ」

ゴホゴホ言いながらマスクを戻し、私の頭をクシャクシャしながらマスクを戻された。

…全く。口で好きって言ってくれるだけでいいのに…。
熱で唇だってカサついているって言うのに、…もう。

「俺、今日はずっと居るから。
誰かさんのせいで仕事にならなくなったから。
あ、後で美味いお粥作ってやるよ」

はぁ、あの男の風邪なんか移されて来やがって…。

俺の本当の風邪は何が原因か解らない。
俺は寒い中、朝まで景衣の部屋の前に居たから。
だから、俺が具合が悪いのは俺自身のモノかも知れない。
だけどそう思うと、景衣とあの男の二人で同じ風邪を共有してるってなるから…だから、俺のこれは景衣から移された事にするんだ。

「もう…。貴方、料理人なんでしょ?
今まで私の作った物なんて…」

美味しいって言ってくれた言葉が疑わしく思えて来たじゃない…。

「景衣のご飯は美味い、それは本当だ。
俺は今はあまり作らないんだ。
人にある程度任せ無いと、景衣と居たい時、居られないからな。
明日も俺は休むから」


「ねえ…本当に私でいいの?
私は貴方みたいに甘い言葉も、可愛らしい事も言えないわよ?」

…ジッと見てるって事は何か企んでるでしょ。

「ねえ…?聞いてる?」

「…確かめるか、今から」

「え?」

「俺、景衣に可愛らしい事、言わせる自信がある」

…。

「駄目よ、片付けが先よ。
貴方は休みかも知れないけど、私は明日仕事に行くんだから。
ある程度…終わってからじゃないと駄目よ…」

「なあ景衣、もう、創君とか、昨日の夜みたいに呼ばないの?
夕べは一杯呼んでくれたのに。
今日は、さっきのが奇跡の一回?」

「…夕べは、…熱に浮かされていたの。
貴方は…、どちらかと言えば、貴方って呼ばれる方がいいって言ってたでしょ?」

「いいよ?…後で言わせて見せるから」

…。

「ねえ、知ってる?一緒に暮らす部屋のルール」

「知ってるよ?拒否出来るって事だろ?」

「そう」

どうよ、参ったか。貴方の目論見通りにはいかないって事よ。

「なあ、知ってる?
一緒に暮らすこの部屋の持ち主」

「知ってる、貴方よ?」

「そう。だから個別の部屋の鍵なんてどうとでも出来るんだな」

「…あ、ずるい。そんなの契約違反よ」

「はいはい。とにかく片付けは追い追いで。
今は、二人の時間が最優先て事」

抱き上げられた。

「一度は無駄な抵抗、してみたいんだよな?
結局、いつもそれ、無駄だろ?」

「…はい」

そうだけど…解ってるけど。簡単に従うなんて恥ずかしいじゃない…。

「待ち人だろうと何だろうと、思い込んだもん勝ちって事だよ。
結果は自ずとついて来る。

俺はちゃんと言葉にして伝えて、後は努力した。
神様はどこに居たって見ててくれたって事だよな、景衣。

願いは叶ったから」

「…はい。貴方、ちゃんと御礼参りに行ってくださいね?」

「神様。有難うございました」

「…え?簡単…今のが、そう?」

「ああ、どこで言っても神様なんだから、お見通しなんだろ?」

「もう。…はい、そうね」


じゃあ、私は心の中で。

神様、優しくて少しやんちゃな待ち人を有難うございました…。

今は取り敢えず、報告までです。
今度ちゃんと御礼参りに行きますね。

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