待ち人来たらずは恋のきざし

あ゙ー、疲れた…。精神的に疲れた。…フツフツする。も゛うーー。もーーーー。
……考えてもどうにもならないモノは、少しでも早く忘れるに限る。それは解ってる。
そうは言っても、そう上手く出来ないから、こうやっていつも落ち込んで弱るんだけどね。

勿論、疲れの理由は仕事上の事。他には無い。
はぁ、最後に架けた確認電話、…これよ。
いつものように電話をして個人名を名乗り、本人様に代わって欲しいと告げた。
通常ならここで、あ、クレジットの確認ですよね、と相手も飲み込みが早い、…はずだった。
それが、いきなりだ。
『貴女…、どこの女よ』だ。

はぁ、参った。瞬時にこの先の嫌な展開が既に頭を巡っていた。
だからですね…、今日のこの時間に、確認の電話を架ける事はそちらの希望で承知している事ですよね?
家族に内緒の申込など、していないはずだ。
だからこっちだってこうして架けているんだ。
それが…、電話に出たのは契約者の奥さんで、名乗った私が個人名の"女"だったから、いきなりこんな言葉を食らったのだ…。

…どこの女、…。
私の今までの拗れた電話確認の中でも中々無いパターンだ。
代わって貰えますかと言ったところで、代わろうとはしない。
挙げ句、うちの旦那になんの用よ、と来た。

…なんの用、…。

電話口の気配で解る。
後ろにご主人は居る。
本人に一向に代わってくれない。

ん゙ー、一応個人名で名乗る決まりになっているし。
断って保留にし、課長に素早く経緯を説明したら、家族も知っている申込だから、名乗っても大丈夫だろうと言う。
…はぁ。
ここまで……言われ損だと思った…。

改めてクレジット会社の名前を告げ、契約内容の確認だと説明した。

…。

…この本の少しの間が、まずい対応をしたと思ってくれているのだろうとは感じ取れた。だけど、よ。

それならそうと、最初から言ってくれていたら済む事、余計な時間を取られた、電話代払ってよね、と言ってくる。

ふぅ…。受話器を塞ぎ、顔を背け息を吐いた。

解ってる、人とはそういうものだ。素直に非を認めるという事が難しい。…自分がかわいいから。
…最初から電話はこっちから架けてるでしょ?電話代なんて一切そちらに発生してないでしょ?
それに、今日のこの時間に電話を架ける事は契約時に説明受けてますよね?
そちらが希望して指定した日時ですよ?

契約者と店の販売員との話までは知らない。
申込に対する注意事項も特に無かった。そこからして本当に通常の契約だ。

契約の事をすっぱり忘れて、中々電話を代わってくれない、そちらも悪いと思うんですけど?
…いいから…サッサと代われよ、と、黒い私の…言葉が口に出ない内に。

何にしても、どれ一つこっちから反論は出来ない。
ただ相手が気の済むまで言いたい事を聞き、はい、はい、と返事をするだけ。…それがマニュアルだ。…はぁ。

だから〜、契約の確認よ。早くご主人に代われよ!とそればかりが頭に浮かぶが、…言いたくても言えない。考えても見てよ。どこに自分の名を丁寧に名乗る浮気相手が居るのよ…。はぁ。

結局、契約内容の確認を終わらせ、解りましたとは言われたが、忘れていて失礼しましたとかは最後まで言ってはくれなかった。
こちらの話し終わらないうちから切られてしまった。…もう、…はぁ。

たった一言、切り際に言ってくれるだけで違うのに。
大人でも大人には中々なれない時もある…。

楽しい買い物をして、その上での申込だろうから、こちらもこんな事で機嫌を損なうような事はしたくない。
だけど疲れる。…疲れた。

あまりある訳では無い、こんなパターンは本当に稀だ。
…余程日頃からおモテになるご主人なのだろう。
信じられてないのかな…。
だとしたら、この申込書に記入された、購入商品名の“ダイヤモンドリング”。
これは本当に奥様の指を飾るものなのだろうか。なんて…余計な思いも過ぎったりもした。
真の購入目的なんて契約には関係無い。過ぎったって決して口にはしないけど。

はぁ…早く忘れたい…癒されたい…。
とにかくベターッと気兼ね無く突っ伏してしまいたい。

電話を終えた時、課長がデスクに来た。

何から何まで承知しているからって顔で、ご苦労様、大丈夫だったか?と言ってくれた。
勿論、この場では大丈夫ですと少し笑って応えるしかない。
はぁ、この大丈夫だったか、と気遣ってくれる言葉が私にとってちょっとの救いだ。
家に帰っても一人の私だ。誰にも愚痴れない。

この、少しの声掛け、フォローが無ければ続けられていないと思う。
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