待ち人来たらずは恋のきざし
・試すって、ナニを?

んー、お父さんだとしても…眠れないじゃないの。
…少しくらいなら話し掛けても大丈夫かな。

「…あの、まだ起きてます?」

「ん?起きてるよ」

あ、何だ…この人も眠れないんだ、きっと。

「お試しって言ったけど、どういう風に考えてますか?」

「どうって?」

「恋愛として?…結婚も?」

「それは意思次第じゃないのか?
普通、惹かれて好きになったらそれはもう恋愛だろ?
恋愛の先に結婚も望むのか、初めから恋愛だけで終わらせたいのか。
結婚は別物と割り切るのか。
人に因ったら、最初から結婚がしたくて、そういう気持ちから相手を決める場合もあるよな。
まあ、それは劇的に恋に堕ちて、とは違うかも知れないが。
それはそれだ。理屈で好意的な訳だから」

ん~、フム…フム…。

「景衣はどう考えてるの。
待ち人って、それに何を期待してる訳?」

「んん…何も無かったから。まず、そういう人が現れてくれる事だけをただずっと願ってたみたいなところがあって…。
だから、まだ何も…、期待とかそんな事は何も…」

…思えば曖昧、凄く漠然とした思いだけだったんだ。
長年固執してた割には、待ち人に対して何も具体的な思いが無い…。
所詮、強く望んでいた訳では無い…という事になる。

「結婚は?…したいと思っているのか?」

結婚…。んー。

「はぁ、解らない。…って言ってる段階で、そう強くはしたいと思ってないのかも知れないです。ん…多分。
だって、したいなら、相手を探す婚活くらい、とっくにしてるはずだから。…必死にもなって無いし」

この年までお見合いだってした事も無い。
やはり私の待ち人を待ってた感情は凄く弱いモノだ…。
こうして改めて考えてみると、何がなんでも、みたいな強いモノでも無い。
待ち人を思う事は、毎年の恒例行事みたいなモノになっていただけなのかも知れない。
はぁ…だったら、…なんだ、私って。
これは、必要なモノになるのかな?
…ずっと一人でいいんじゃない?

「婚活もせず、ただ漠然と、…いつか来るだろうと。
確証の無いモノを決まりごとのように待ってた訳だ。
自分からは全く動かずに。
文字通り、待っていた…だけか」

「そうですね…そうなりますね。だから」

これは意味が無いモノかも知れない。と続けたくても、被せるように言葉が返って来た。

「そうすると、必然的に長い間恋愛からは遠ざかっていた訳だ。
片思いとか、好きになる奴も、全く居なかったんだ」

男は肘をつき頬に手を当てこっちを見ていた。

「…そうでしたけど」

「あー!…これで思い出した。
俺、言った事は酷い事だったけど、景衣に頬っぺた叩かれたからね?
それも結構な力で。
迷い無く振り抜かれたんだった」

今更…。
痛かったな~って、頬を摩って見せられた。

「あ…それは…本当にごめんなさい。
悪かったと思ってるのよ?…ちゃんと謝ったでしょ?」

「フ。あぁ、まあ、それはもういいんだけど。
核心を突き過ぎてたって事だな。俺も悪かった…ごめん。
ここ数年居ないってくらいの事ではなさそうだ。
ブランクはかなり有りそうだな」

…もうその話、いいと思うけど。

「まあ、その事もいいか。
人嫌いって事でも無いんだろ?人間不信になってるとか、そんな事は無いんだろ?」

「そんな事は無いと思います、…多分」

人間不信とか考えてみた事も無い。

「男を好きになる事に興味は湧かなかったのか?」

「んー、解らないかも。
好きになる人が誰も居なかったから?かも。
よく解らない…自然任せにしていたら。
結果、…今ですから」

決して周りに居ないなんて事は無いはず。
待ってるだけでは、目の前をそう都合よく通り掛かってはくれないだろうから。じゃあ、興味が無かったんじゃないの?…ずっと。

「仕事内容が影響してるって事は無いのか?
自分では知らず知らずの内に、男って言う前に、人間そのものに嫌気がさしているとかさ。明けても暮れてもクレームの事とかで。
大丈夫なのか?」

「男性を対象にとかも、改めて考えた事が無いから解らないです」

「俺に興味は湧きそうか?」

「…、え゙っ?!」

離れて半身になっていた。

「フ。…解った。満更でもなさそうだな、…いい反応だ」

「え?」

「いや、いいから、なんでも無い。あー、でも覚えといて。
俺に少しでも興味が湧いたら、止めないからな」

え?…ちょっと、何よ…何をよ…。
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