待ち人来たらずは恋のきざし


「そう、そのお礼の事だ。
あんたの理屈だと、今は神様は居ない訳だろ?…だったらお礼も何も伝わらないんじゃ無いの?」

ん、もう…いいじゃない。神様にも、私にも、興味なんて無いくせに。
言ったところで理解されないような事、答える必要があるのかしら。
どうせ、おかしな理屈だって、また思われるだけ…はぁ。

「…それは、…気持ちの問題です。…多分そうする事で自分が納得するから。
それに相手は神様です。神様だったら、どこに居たってきっと届いていると思うから」

「ふ〜ん、ま、気持ちの問題って言われたら、そんなもんだよな。なるほどね、納得。

あんたさ」

納得?気持ちの問題なら納得?…。

「ちょっと、あの…それ。さっきから、あんた、あんたって…止めて貰えます?」

「え?あぁ、それは仕方ないだろ。あんたはあんただよ。
名前知らないんだから他に呼びようが無い。
君とか、言え無いでしょ。
明らかに俺よりは年上だと思うから」

…明らかにってね…、何か…眉間にシワが入りそうな言い草じゃない?
確かにそうでしょうけど…、はっきり物を言う人ね。

じゃあ、…年上に向かって、あんたって言わなきゃいいでしょうに。
他に代名詞もあるでしょうに。

だからって、どこの誰だか解らない男に、名前なんか教え無い。
バーでたまたま、ちょーっと居合わせたくらいで関わりたく無いもの。

「とにかく、さようなら、おやすみなさい」

少し早足で前に出た。

「は?何だよ、急に逃げるように離れて歩く事も無いだろ?
夜だし、女の一人歩きより俺と一緒の方が安全じゃ無いのか?」

…はぁあ?…全く…どの口が言ってるのよ。
どこの誰だか解らない男と、こうしてずっと居る事の方が、余程危ないって話よ。

頼んでもないのに、ボディーガードにでもなったつもり?

…ふぅ。ここは一先ず、穏便に…大人として、引いておかないと。

「大丈夫です。…襲う人間だって相手くらい選びます。
わざわざリスクを犯してまで、若、く、な、い、アラフォー女は襲いませんから」

ふ〜ん…アラフォーなのか。
最低でも5歳年上…それ以上だと最高14は上って事か。
そこまでではなさそうだけど…。

若く見えるな。俺よりちょい上くらいだと思ってた。

「あんた…金銭目当てで襲われる事だってあるんだ。アラフォーだって全く危険じゃ無いなんて無いんだぞ。
抵抗して怪我する事だってあるんだ。
若い子より、あんたくらいの方が金も持ってそうだし、危ないだろ。
それに、暗いところじゃ年齢はよく解らないんだから」

はあ゙?…お金目当てになら?…年齢が解らなければ襲われる?…って…もう、その言い草…。
無意識に傷つけてるって、解って言ってるのかしら?
…ふぅ。まあ…、ね、…悪気は無く、心配で言ってくれたと思っておきますけど。

「別に普通に歩いていればいいだけだろ?
嫌なら喋らなきゃいいんだし」

「そうね…私は私の帰り道を歩いているだけだから」

「俺だって、そうだって言ってるし」

…。

黙々と歩けばいいって事よ…。

この男と一体どこまで一緒に歩けばいいんだろう。
この男の家は、私の部屋より先にあるのかな、まだかなり遠いのかな。それとも手前?

別にバラバラに帰っている訳だから、私は私の部屋にただ帰ればいいだけなんだけど。

部屋が目の前になって、ここって解るようには帰りたくないのに。

あっ、…。
そんな事を考えていたら、自分のマンションの前を通り過ぎてしまった。

もー!…どうしよう。

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