待ち人来たらずは恋のきざし
「残念ながら今日は落ち込んでる日でもなさそうだな」
「はい。変な電話も無かったし、振られても無いです。
折角の週末、落ち込んで休みを過ごすような目に、いつもいつも遭いたく無いですから」
「落ち込んだ時はそんなに引きずっていたのか」
「そんなものだと思います。頭では割り切ります。
でも、事あるごとに溜め息は出るし、ボーッとしてしまいます。
自分の中には残したく無いけどバランスは徐々にしか回復しません。
そうしている内にまた次の理不尽な電話に当たる…。
落ち込むのはもう慢性的なものです。
回復して…、まだ大丈夫じゃなくて、それが麻痺して来ただけです。
討たれ強いと思うのも、文句を聞き慣れただけの事です。
…はあ、…何だかすっきりしました」
「は。…フ、…ハハ。
すっきりしたのか」
「はい。溜まってたみたいです」
「そうやって、たまには吐き出せばいいんじゃないのか」
「…課長と同じですよ」
「ん?」
「吐き出せる環境に居ないから…。
課長は一人じゃなかったけど、何も吐き出せなかった。
私は一人だから、吐き出して聞き流して貰える人さえ居なかった。
…人が居ても居なくても、吐き出せる環境に居なかったという事が同じって事です」
「どっちも辛いか…」
「人が居ての方が辛いと思います。
別の苦しみも出来て来ますからね」
「…相変わらず、遠慮の無い言葉だな。
無表情にグサグサ刺されてる気分になる」
「はい。事実でしょ?」
「…はぁ、…ズケズケ言って、嫌な奴だと思わせてるのか?
俺を嫌いにさせようとしてるのか?
解ってるとは思うが、そんなのは無駄だ」
「全然。普通の話です」
「フ。…本当に、変わってるよ。
…だから浅黄がいいんだ。そんな浅黄だから好きなんだ、…ずっとな」
…逆に語り過ぎてしまったって事ね。
はぁ、まさに時間は戻せ無い…。
「嘘も隠しも無い、浅黄の言葉はストレートだからな、いつも」
課長に対して、良く見せようなんて思って、可愛らしい事を言った事は無い。多分。
「課長は誰かに強く言われた事が無かっただけです。
だからキツイ私の言葉が珍しくて、新鮮に映っているだけだと思います。
その言ってる私が、たまたま女だっただけの事です」
私の頭はきっと男性寄りの脳に違いない。