待ち人来たらずは恋のきざし


今回もアルコールは無し。
課長は飲める人だと思うが、少しも口にしないのは、話をする為だからだと思う。

適当に料理を注文して食べ始めた。


「浅黄、俺は、浅黄の別れた昔の相手とは違うぞ」

「はい?」

「言っただろ、この前浅黄が。

俺は浅黄とはつき合って別れた訳じゃない。やっぱりお前が良かったなんて言わないし言って無い。
別の女性と比べたような発言はしていない」

…。

「それが、話したかった事ですか?」

「一部だ」

「すみません、その事は、別にそれ程深く意味を持って言った訳でもありませんでした。
課長が何か考えるような事を言えば、その場に足止め出来るかなと思ったんです」

追い掛けて来そうな勢いがあったから。

追い付かれたら…敵わないから。

「そんな…同じ人だと思って言った訳でもありません」

「じゃあ、俺が結婚を取り辞めて、直ぐにでは無くても、浅黄と一緒になると言っていたら?
その事はどうなんだ。
それも、俺から逃げる為に、気を引く為に言った事なのか?」

「それは、あの頃の事は、その時にしか解らない事です。
あの後、課長が結婚していなかったら解らなかった話ではあります。

そうですよね?先は解らないじゃないですか」

…。

「まあ確かに、いいようにも、…どうにでも取れる話だな」

「はい、過ぎた時間は戻りませんから」

「…確かに。…だから、俺の言った話はこれからの事だ。
別に、昔に戻って縒りを戻そうなんて関係じゃなかったはずだ」

「だから、無い話ですよね?
昔も、これからも」

「これからを考えてみて欲しいんだ」

…。

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