1405号室の佐藤
雑然とした部屋。

脱いだままソファに投げかけたコート。

つけっぱなしのテレビ。

テーブルの上には、飲みかけのコーヒー。


そして、スマホ。

こいつが、あたしを自殺未遂へと駆り立てた犯人だ。


あたしはソファに座り、スマホを手に取った。

あたしに死を決心させたメール画面に目を落とす。


はぁ、と大きな溜め息を一つ。


そのとき、ピンポーン、と玄関のチャイムが鳴った。


なんだ、こんなタイミングで。

いったい誰?


よろよろと玄関に向かって、ドアの覗き穴から外を見ると。


「…………え」


意外すぎる人物が、むすっとした顔でドアの向こうに仁王立ちしていた。


ついさっきベランダ越しに会話をした真下の部屋に住む男、1405号室の佐藤だ。


「………えっ、ちょ、な、なんで?」


戸惑いを隠せず、あたしはドアの前でおろおろする。

すると、待ち兼ねたようにピンポンピンポンとチャイムが繰り返された。


「開けろよクソバカ! 寒ぃんだよ!」

「えぇっ、なんで!?」

「開ーけーろー!!」


佐藤が近所に響き渡りそうな大声で叫んだので、あたしは慌てて鍵を開ける。

その瞬間、佐藤は勝手にドアを開け、玄関のなかに入ってきた。


「…………ど、どうして?」


あたしがちょっとびくびくしながら言うと、佐藤は手に持っていたモノをずいっと差し出してきた。


「………なにこれ」

「見たら分かるだろ、酒だよ酒」


佐藤が持ってきたのは、500mlの缶ビール二本と、日本酒とウイスキー。

訳が分からず顔を上げると、佐藤がにぃっと笑った。


「まぁ、これもご縁、ってやつだからな。話くらい聞いてやるぞ?」


ぼさぼさ頭によれよれのスエットを着た佐藤は、明るいところで見ると、なかなか整った顔をしていた。


「今日はつまみがなくて困ってたんだよ。お前の自殺話、酒の肴にさせろよな」


…………でも、やっぱり嫌なやつだ。


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