夜界の王






▼▲▼




どれほどか歩いた頃、急に森がひらけた。

雑草が生えっぱなしになっていた森から一変し、人工的に整えられた草はらに出る。

アーシャは前方に目を向け、そこに現れた巨大な屋敷に息を呑んだ。


(なんて大きいお屋敷……)


そこには、まるで城のように夜闇にそびえ立つ屋敷があった。

森の奥にこんなものがあったなんて。


屋敷が空をも巻き込んで纏う雰囲気は、闇そのもののように陰鬱としていた。

上空には(からす)たちが塵のように旋回し、金切り声でアーシャたちを出迎えた。


どことなく現実離れした、不気味な空間だった。

やっぱりなにかまずい場所へ連れてこられてしまったのだ。


アーシャは屋敷の巨大さとこの場の不快感に恐れ、身を強張らせた。


男はちらとアーシャに目をやり、腕の力を強めて抱き直す。


慣れた足取りで男は屋敷の門扉へと進んで行く。


槍が地面から突き出したような頑丈そうな門扉は、左右にどこまでも続いている。中央の巨大な屋敷全体を、この高い柵が囲んでいるのだろう。







< 32 / 64 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop