夜界の王




(だけど、素直に与えられたものを食べるのは……)


まだこの男の全てを信用することができない。

この食事の中に何かを混入させていないとも限らないのだ。

なかなか踏ん切りがつかず、しかしお腹は空いている。

どうすべきか決められずにいると、男がおもむろに席を立ち、アーシャの横に席を移した。


男が腰掛けたことで長椅子のクッションがさらに沈み、アーシャは座りながらよろけてしまう。


座るなり彼は適当な空き皿を取った。食器が音をたてる様子をぼんやり眺めていると、口元へ黄金色(こがねいろ)のスープをすくったスプーンが寄せられる。

驚くアーシャに男は言う。


「スープなら飲めるだろう」


どうやら食べさせてくれようとしているらしかった。


「は、はい……でも」


男はアーシャが悩んでいることを察したらしく、


「何も入っていない。安心して食べろ」


そう言われてしまうと、断りきれない。

アーシャは口をつぐみ、おそるおそる差し出されたスプーンに口をつけた。


「……!」


美味しい。

すごく美味しい。

あまりの美味しさに男の方を見てしまう。


目があった彼は、ほんの微かに笑ったーーーような気がした。


「うまいか」

「はい…、すごく」


こんなに美味しいものは食べたことがない。

アーシャは再び差し出されたスプーンをためらいなく口につけた。



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