秘密のラブロマンス~恋のから騒ぎは仮面舞踏会で~

「ところで、ギュンターのお相手はエリーゼかい?」


問いかけに、ギュンターは片眉を上げてクラウスを見た。
パラパラと肖像画を見たものの、縁談の話は両親に任せるつもりなので、どんな令嬢が候補者としているのかもギュンターは覚えていない。


「さあな。母上に任せてある。まあでも、バルテル公爵家からの縁談があるなら、それ以上の家柄はないだろうから、決まりだろうな」


バルテル公爵は、現国王ジークヴァルトの弟である。
長女のエリーゼは十七歳。今最も動向が注目されている令嬢である。

王家の血筋に脈々と受け継がれるエメラルドグリーンの瞳、豊かな栗色の髪。厚みのある唇は艶があり、思わず唇を寄せてしまいそうになる、と言ったのは誰だったか。ギュンターは会ったことはないが、とにかく美しく気品のある令嬢だともっぱらの噂だ。

しかし、ギュンターは噂というものを信じてはいない。
なにせお転婆な妹が、世間ではおとなしく気弱な令嬢と言われていたりするのだ。


「ああ。ベルンシュタイン伯爵夫人はそういうところがしっかりしてそうだよな」


しっかりというかがっつりだろう、とギュンターは思う。

とにかく母親は打算的で、利益と心情を秤にかければ間違いなく利益を選ぶタイプだ。
家柄的に、エリーゼ嬢以上の結婚相手としては、王の末娘しかいないが、彼女はまだ若干十四歳。少なくともギュンターにとっては恋愛対象には考えられない。


「まあ、母上がそれを望むなら別に構わない。恋しい相手がいるわけでもないしな。結婚は家のためのものだ」


さらりと言い放ったギュンターにクラウスはつまらなさそうに唇を尖らせる。

< 10 / 147 >

この作品をシェア

pagetop