秘密のラブロマンス~恋のから騒ぎは仮面舞踏会で~

「ヴィリー、エリーゼ嬢は無事か?」

「意識はありませんが、外傷はなさそうです!」


ギュンターの叫びに、馬車の中からは素早い返事が返る。


「なら飛び降りろ。何があっても令嬢にだけは傷をつけるなよ」

「もちろんです」


二頭立ての馬は興奮のため制御がつかなくなっていた。足並みをそろえることができず、馬車は蛇行した。

エリーゼを抱きしめたヴィリーが、空を舞う。
自分の体をクッションにするように地面へ落ち、ヴィリーはうめきに似た声を上げたが、エリーゼにだけはけがをさせないようしっかりと抱きしめていた。衝撃のあと、エリーゼのドレスだけがふわりと広がって空気を含み、時間差で優雅に地についた。

そのまま、蛇行運転を続ける馬車を、騎士団の数人が追いかける。
ギュンターとクラウスは地面に落ちたヴィリーのもとへと駆け寄った。


「無事かい、ヴィリー」

「はい。エリーゼは無事です」

「馬鹿だな。俺は君の方を心配している」

「僕は大丈夫です。エリーゼを救えるなら……怪我など大したことはありません」


安心したように、彼女の体を強く抱きしめるヴィリー。頬から流れた血をふき取りもせずそんなことをいう彼に、ギュンターは好感を抱いた。


「……ん」


そこでようやく、エリーゼが瞼を揺らした。


「ここは?」

「エリーゼ! 気が付いたのか?」


ヴィリーの腕の中で、美しい令嬢がゆっくりと目を開ける。人目を引き付ける、きらめくエメラルド。
間違いなく男を魅了する力のあるこの令嬢を見て、今回の仮面舞踏会が無ければ彼女との縁談を了承したかもしれないな、とギュンターは苦笑する。

それはそれで幸せな生活だったのかもしれないが、恋を知った今の自分には選べないものだった。

< 87 / 147 >

この作品をシェア

pagetop