大阪感情線
a.m.8:12
いつもの電車に乗り込む。朝から疲れ切ったサラリーマンを横目に新聞に目を通す。毎日毎日物騒な事件ばかりの一面は裁判で無期懲役が決まったとか、どっかの食品会社からまた不正疑惑が出たとか、多すぎて何の事件かすら分からなくなってきている。

「はぁ」
無意識に出た溜め息…
ふと我に返って溜め息すら自分の意志に反して出てくることに呆れ、今度は意識的に小さく溜め息をついた。


a.m.8:45
「高崎くん!」
「おはようございます。西尾課長。」

あぁ朝から嫌な上司に会ってしまった。不倫していたらしい後輩が寿退社してからどうも機嫌が悪いらしく、人の顔を見るたびにケチをつけなければ気が済まないらしい。
「どうかなさいましたか?」
都心のど真ん中に自然を…とかいう、名ばかりのコンセプトで作られたハコモノは、1階ロビーの中心に大きな楠木が植えられ、そのために全階吹き抜けの上、日光が必要だとかで、全面ガラス張りという非常に効率の悪い建物だった。
ましてや、この不倫オヤジに引き止められたここは朝日がさんさんと差し込む東側。あぁもう勘弁してほしい…。
「それがちょっと困ったことになってな…」
ここから延々10分以上続いた課長の話を簡単に解釈すると、若いOLをターゲットにした化粧品メーカーとの取引に難航しており、業を煮やした相手先が中年オヤジとは取引出来ないと言ってきたから代わりに契約を結んできてほしい。直属の上司・澤井課長は既に了承済みだ。
ということらしい。

全く澤井課長も澤井課長だ。これじゃあ断ることも出来ない。
西尾と別れた後、また軽く溜め息をついた。
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