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第12話

10月29日(土)PM6:30。
 彩花と明日の約束をして駅前のビジネスホテルに真は入る。フロントでチェックインを済ますと、真はすぐに部屋に向い入室する。田舎のビジネスホテルらしく内装はあまりよろしくない。ベッドに腰を下ろして一息つく間もなく、携帯電話の着信音が室内に鳴り響く。
「休む暇すらないな」
 携帯のディスプレイにはお馴染みの名前が表示されている。
「はい、こちら真。まるで部屋に入るのを見てたかのようなタイミングだな」
 真が嫌味を言った瞬間、部屋ドアをノックする音がする。
「まさか……」
 携帯を片手にドアの覗き穴を覗くと、そこには嫌な予想通り晶が立っている。
「何待ち構えてるんだかコイツは」
 携帯の電源を切り、真はしぶしぶドアを開ける。
「遅い」
 晶は開口一番文句を言いズカズカ部屋に入ってくる。手にはコンビニ袋を持参しており、中には間違いなく甘味系のお菓子が入っているのだろう。
「七時の約束だろ? 一休みするくらいの余裕くらい持たせてくれてもいいんじゃないのか?」
 ドアを閉めると真は晶に向く。晶は既にベッドの上であぐらをかいて待っている。その手には既に開封済みのチョコボールが二箱握られている。
「やることないんだから仕方ないじゃん。今日は彩花に見つからないようにほぼ缶詰だったんだし。そんなことは置いといて、今日の収穫はどうだった?」
「そんなことって、ったく。相変わらず人使いが荒いな」
 文句を言いながら真はイスに座る。
「じゃあ、今日の出来事について教えるが、朝このロビーで晶と落ち合った後、予定通り墓場に行って墓場の状況を確認した」
「何かあった?」
「いや、周囲はもちろんのこと、墓自体にもこれと言って変わったところはなかったな」
「ダメダメじゃん」
「墓の方はな。ただ、一つ気にかかる出来事は発見できた。それは桜の木だ」
 晶は真の目を無言で見つめて先を促す。
「小林さんの実家の地域で結構有名な桜の木があるんだが、その木が明後日工事の関係で切り取られるらしい。ここに来る前に小林さんのおばあちゃんからも話を聞いたんだが、その桜の木の撤去話が持ち上がったのは一か月前くらいだそうだ。元々あの辺の土地は国有らしく、とんとん拍子に話が進んだんだと思う。これがその証拠の画像だ」
 真は携帯電話のカメラに撮っておいた桜の木やフェンスに書き込まれていた内容を晶に見せる。真剣な目付きでしばらく写真を見ると晶は携帯を返す。
「で、この桜の木と彩花のリピートの因果関係は?」
「ここからは推測になるが、あの桜の木は意思を備えており、自分が切り倒されることを予見し小林さんに助けを求めた。リピートの回数や曜日の関係はよく分からないが、リピートにより切り倒される期日を延ばすという意味と、延ばすことでその間に小林さんからの具体的な助けを求めるという二つの意味があったのではと僕は推測した。撤去が決まった日とリピートの始まった日もほぼ一致するしな」
「ふ~ん、めちゃくちゃ非現実的だけど一応筋は通っている、か。その推理が当たってたら、リピートの解決は桜の木を助けることになるね」
「そういうことになる。しかし、それはかなり難しいだろう。まず公共事業を中止させることはできない。ゆえに明後日の工事は揺るがせない。次に桜の木を移転させる案が考えられるが、あの大きさだと何百万円もの資金がかかる上に、時間のない状況で今から桜の木移転をしてくれる業者がいるとも思えない。これらのことから後二日で桜の木を救うというのはかなり厳しいと言わざるを得ない」
 腕組みをしながら真は考えを述べる。その意見を聞いて晶は少し目を閉じてから自分の意見を展開する。
「公共事業がガチなのはあたしも同意。でも、移転はどうにかできるかもしれない」
「時間と資金、両方の問題をどう解決つけるんだ?」
 真の言葉を受けて晶はヤレヤレというポーズをとる。
「真さぁ、観察力落ちてない?」
「どういうことだ?」
「写メのフェンスに書かれてある建設会社に見覚えはない?」
「建設会社?」
 晶に促され真は携帯を開いて写真を確認する。そこには一年前の事件で話題になった丸武建設の名前が見てとれる。
「あの丸武建設か? 先の事件で一時期叩かれていたが、まだ存続してたんだな」
「丸武はそこそこのゼネコンだから、会長が死んだくらいじゃビクともしないっしょ。今ごろ身内のボンボンがトップでふん反り返ってんじゃないの」
 晶はチョコボールをポリポリ食べながら建設会社をバッサリ斬り捨てる。
「しかし、丸武建設が請け負っていることが分かったからと言って、どうすることもできないだろ? インサイダー取引や丸武会長が指示していた違法行為は既に世間に露見している。今更それをダシにも使えないだろ?」
「甘いね、真」
 晶は悪巧みを提案するときのニヒルな笑顔を見せる。
「ダシがないならダシを作る、証拠がないなら捏造する、これ探偵の常識」
「おいおい、さらりと違法行為を肯定してんじゃねえよ、ったく……」
 真は呆れた様子で溜め息をつく。
「現状、桜の木を救うことでリピート解決の可能性があるのなら、何がなんでもやるっきゃないじゃん。それとも真は彩花がどうなってもいいっていうの?」
「そんなことは言ってないだろ。ただ、解決のためだからといって、違法行為はよろしくないってことだ」
「じゃあ、違法行為じゃなければ納得する?」
「そりゃもちろん」
「ならこの桜の木救出の件、すべてあたしに任せてくれる? 違法行為もなく安全確実に桜の木を救ってみせるから」
 そう断言する晶の目はいつものように自信に満ち溢れている。
「工事は明後日、手を打つなら明日しかないんだぞ? 間に合うのか?」
「ふふふっ、ちゃ~んと秘策があるんだなコレが」
 晶はニヤニヤしながら、不安そうな真の顔を眺めていた。


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