repeat
第13話

10月29日(土)AM7:00。
 真と彩花は向かい合う形で座席に座る。土曜の始発列車ということもあり、乗っている客層がいつもとは違い、のんびりとした空気が漂っていた。
「小林さん昨日はよく眠れた?」
「あ、はい。普通に」
「それは良かった。ところで、小林さんの実家ってどんなところ? やっぱりみかんの栽培とかしてる?」
「ええ、まあ…」
 待ち合わせの駅前で会ったときから、真に対する彩花の応答はたどたどしい。真は不審に思って訊ねる。
「なんか今日の小林さん、昨日とは様子が違って見えるけど気のせいかい?」
 気遣う言葉に彩花はしばらく黙っていたが、我慢できずに白状する。
「あの、実はさっき駅前で会ったとき昨日リピートしなかったと言ったの嘘なんです。今こうやって真さんと実家に向うのは、私二度目なんです」
「えっ!? じゃあ、一回目の土曜日は何かトラブルでも?」
「いえ、トラブルは全くありません。むしろかなり進展したと考えていいと思います」
「進展? どういうことか詳しい話をしてくれる?」
「はい。えっと、まずこの作戦は晶からの指示で動いてます。一回目の土曜日がリピートしたのは、晶から私に連絡があったからなんです」
「じゃあ、今回のリピートは晶が原因って訳か。しかし、女性に相談した場合はリピートが確実に起こることは金曜日の段階で確認済みだ。なぜ晶はわざわざリピートするような行動をしたんだ?」
「それにもちゃんとした理由があります。でもその前に、晶が何をしようとしているのかを説明しますね。一回目の土曜日、真さんと私は私の実家に行き、近所の桜の木を見ました。でもその桜の木は高速道路建設のため二日後の月曜日に切り倒されることなっていたんです。切り倒される話が持ち上がったのが約一か月前だと私の祖母から聞いた真さんは、リピートの原因は桜の木が私に対して助けを求めていることからきているのではと推理しました。そこで桜の木を助ける方法を真さんと晶が考え、今まさに晶が動いているところなんです」
「話が飛躍し過ぎて理解に苦しむよ。でも、話はだいたい分かった。それならリピート解決の可能性も多少はあるのかもしれない。しかし、既に晶は動いていると言ったが、晶にはどうやってこの事実を伝えたんだ? 直接伝えてしまったら今日も確実にリピートすることになる」
「はい、そこも抜かりはありません。真さんがまだ一年生のとき、生徒会に佐々木さんという方がいたんですよね? 今朝茶屋咲駅で真さんと落ち合う前に、佐々木さんがリーダーで運営している奉仕活動の事務所に行ったんです。もちろんこれらの情報も晶から教わりました。そこで佐々木さんの間接的な協力を要請し、今までの状況と今後の行動内容を書いた手紙を晶に渡してもらうように頼んだんです。佐々木さんにはリピートとか桜とかの詳しい話はしてませんけど、晶への伝達はすぐに行うと快諾してくれました」
「なるほど、佐々木先輩は律義だし口も堅いからな、うまい人選をしやがる。しかも佐々木先輩には関節的な伝達のみで、晶に直接相談してないからリピートの可能性も無い、か。しかし、僕に知らないところで解決に向けて一気に事が進んでいたなんてビックリだよ。でも、この状況から考えたら、本当はこの話を僕にするのは晶の役目だったんじゃないのか? 晶は僕を出し抜いて驚かすことに快感を覚えているからね。なんで話してくれたんだい?」
「それは……」
 彩花はうつむき加減で口を開く
「それは、すごく真剣に問題解決に取り組んでくれている真さんの気持ちに背いているみたいで嫌だったから。晶は事件の解決を楽しんでいる部分が大きいけど、真さんは解決のためだけに動いてくれてる。真さんの言うように、晶は真さんを驚かしたりして楽しもうとしてたみたいだけど、私はそれが嫌だったんです。真さんが、真面目な人だから……」
 うつむいて顔を見られないように彩花はつぶやく。
「そうか、小林さんは優しいな。ありがとう」
 真の言葉に彩花は顔を上げられずただ首を横にふっている。
「じゃあ、今回のリピート事件も大詰めってところだな。ま、晶が解決に向けて動いているのなら、僕たちがすることはもう何もないかもしれない。あ、そういやわざとリピートをした理由をまだ聞いてなかったな。リピートの理由はなんだったんだ?」
「リピートの理由は単なる時間稼ぎです。土曜日の夜の段階で、晶は桜の木のことを真さんから聞いたみたいなんです。けれどそのときからじゃ月曜日の撤去までに動ける日数が日曜日の一日だけになる。そこでわざと私とリピートの会話をすることにより、リピートを誘発させ土曜日の朝まで時間を溯らせる作戦を立てたんです」
「なるほど、晶らしい無茶な作戦だ。そして、相変わらずズル賢い」
 真は言葉とは裏腹に笑みを浮かべる。晶の作戦に心底納得しているのだ。そんな真を見て彩花は浮かない顔をする。
「他に晶からの指示みたいなものはなかったかい? 何もなかったら今から僕らが小林さんの実家に向う意味はあまりないと思うんだけど」
「あ、真さんには当初の予定通り動いてもらい、日曜日をビジネスホテルで迎えてほしいと言ってました。日曜日にすべて解決するところを現場で見てほしいんだと思います。半分は驚かしたい気持ちがあるんでしょうけど」
「そうだな。ここまで来たんだし、最後まで見届ける義務はある。明日はみんなで桜の木の救出を見守るとしよう」
 真の言葉に彩花は笑顔でうなずいた。


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