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第20話

10月31日(月)PM6:30
「興味深いことが分かったの」
 約束の時間から一時間遅れて喫茶店に現れた晶の手には、何故か冷凍みかんのパックが握られている。真は健から渡された生徒会の資料とアツアツのコーヒーを一旦テーブルに置き、晶の話に耳をかたむける。
「どういうことだ?」
「彩花の実家の近くにあったあの桜の木、元々はあの村にあったものじゃなくて、下の村にあったものらしい」
「確か小手川村って名前だったな」
「そう。この話は小手川村の人から聞いた話だからね。でね、ここからが面白い話。あの桜の木は双子だったらしいの」
「双子ってどういう意味だ?」
「真、あの桜の木の名前は知ってる?」
「いや」
「双姫(ソウキ)の桜って名前なのよ。今からおよそ二百五十年前、あの村に双子の女性がいた。当時の地主の娘だったらしく、そこそこの名家だったみたい。で、その姉妹の妹が城下のお偉いさんに嫁ぐことになった。村で名家と言っても所詮は田舎の中でのこと、この縁談は村にとってもすごく良い話だった」
 みかんを口に運び、晶は一息つく。
「でも、一人その縁談を良く思っていない人物がいた」
「双子の姉だろ?」
「ビンゴ。良く思ってないというより、一人になるのが寂しかったんだろうね。なかなか妹を祝福する気持ちになれなかったみたい。そこで妹が取った方法が桜の木の苗木を自分に見立てて姉にプレゼントすることだったの」
 晶の昔話を真は黙って聞く。
「一年に一回、桜の咲く頃には帰ってくるからって意味もあったみたい。その気持ちを姉も素直に受け止め、自分からも桜の木を妹に贈り、お互いの分身として見立てた。桜の木を見ればお互いを思い出せるようにね」
「いい話だな」
「そこまではね。実際、桜の木はお互いの家の庭に植えられ立派に育った。けど、嫁いだ妹は早くして病死し、立派に成長した桜の木を見ることなくこの世を去った。桜の木が立派に成長するのには十年以上はかかるからね」
 晶は食べ終えたみかんのパックを小さく折り畳む。
「時が流れて姉も亡くなり、桜の木だけが残ったけど、その姉妹のことは村で有名な話になり現在まで語り継がれてきたみたい。その話を聞いた村の人たちは、双姫の桜をずっと大事にし守ってきた。城下に植樹された姉の木の方へもわざわざ通ってたくらいだからね。元々小手川村にあった妹の木が槍方村のあの場所に移植された理由は定かじゃないけど、一部の話じゃ戦時中の空爆を逃れるために移植したという説が濃厚みたい。そして移植した後は特に問題なく現在に至る、って感じ」
 そこまで話すと晶はスッと立上がり店のカウンターに歩いて行く。みかんをすべて食べ終え、口寂しくなったようだ。
「おまたせ」
「桜のルーツは分かった。それと今回のリピートとの因果関係はあるのか?」
「ある。はず……」
「頼りない返答だな」
「だって、仮に可能性があったとしても、リピートが解決しなきゃ断言は出来ないじゃん。こればっかはやってみて結果見なきゃ分かんないし。でも、今は何であろうとやるしかない。でしょ?」
 真はその言葉に頷くしかない。
「あたしがなんで双姫の桜の話をしたのかというと、槍方村にある妹の木と対をなす、姉の木の存在が気になったからなの。妹の木にリピートを付ける能力があるというのなら、もう一本の姉の木にだってリピートを付ける能力があってもおかしくはない。妹の木を助けて彩花のリピートが止まったというのなら、姉の木を探し助けることで真のリピートは止まる。と、あたしは推理した」
 店員の運んできたミルフィーユとココアを受け取ると、晶は話を続ける。
「ところで、真は社会とか歴史の話は好きでしょ?」
「ああ」
「なら、茶屋咲駅周辺が元城下町だったのは知ってるよね?」
「当たり前だろ? 昔ながらの町並みは今もたくさん残ってるからな。ん? まさか……」
「うん、妹が嫁いだ城下町は茶屋咲だということが分かってる」
「茶咲屋に!? じゃあこの町のどこかに姉の木があるってことか」
「イエス。しかも、その場所も特定できてる。小手川村の村人で桜の木の場所まで知ってる人はいなかったけど、茶屋咲と聞いたときあたしは一発で閃いたしすべてが繋がった。真ならもう分かるでしょ?」
 晶はニヤッとしながら真がテーブルの横に置いた生徒会の資料に目線を送る。
「桜の木……、そうか、茶屋高の桜の木か!」
「ここに来る前に会長から桜の木のことは聞いてきた。台風で折れた桜の木を率先して直そうと力を入れてたの、真なんでしょ? ならもう決まりだって。学校の桜の木が真に助けを求めリピートを付けた、でファイナル答え」
 人差し指を立て晶は断言する。
「だからか、小林さんはリピートせず僕だけがリピートしたのは」
「だろうね。さっき確認してきたけど、もう業者が桜の木の修繕の下調べしてたし、明日からは本格的な修復に取り掛かる段取りになってるから、多分リピートは止まると思う。ちなみに作業費用は某建設会社の某社員の善意でまかなわれています」
 ミルフィーユを口に運びなから晶は既に手を回し終えた計画を語る。その手回しの早さと推理力に、真はただただ溜め息をつくことしかできない。
 真が目を通していた生徒会の資料には、ちょうど桜の木の写真のページが開いており、それは修復を待ちわびるかのように立派な存在感を写し出していた。

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