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最終話

3月11日(土)PM1:00
 卒業式を終えた三年生を校舎南口の玄関に迎え、生徒会恒例の卒業写真撮影が始まる。生徒会では必ずこの南口前の桜の木の元で卒業写真を撮るのがしきたりとなっているのだ。
 常に11人で構成されていた生徒会員も三年生が卒業すると約半数となる。サボり常習犯の晶もこの日ばかりはちゃんと出席しているが、校舎の壁に寄り掛かり居心地が悪そうに足をプラプラさせていた。
「よーし、全員集まったな。では卒業生各自からの最後の挨拶を始める。最後の説教と思い、心して聞け」
 健の放つ力強いセリフに、約一名を除き在校生メンバーは緊張する。次々と挨拶をしていく様子を彩花も遠巻きから眺める。幼馴染みの瞳の最後の姿を見に来たのだろう。
「では最後に俺からの挨拶だ。生徒会ってのは、生徒による生徒のためのもんだ。生徒会員だから偉いってもんじゃねぇ。これからも全校生徒のより良き学業生活のため尽力せよ。特に……、久宝!」
 突然名指しされた晶はビクッとする。
「はい、なんでしょうか?」
「お前はサボり癖があり、周りに誤解されやすい性格をしてる。が、ここ一年陰で一番尽力していたことを俺は知っている。これからも全校生徒のため励むように」
「了解、会長殿」
 晶は健に対しても平気で軽口をたたく。溜め息をついて健は締めのセリフを語りだす。
「とにかく、後のことはお前らに任せる。後世の先輩方が培ってきた伝統あるこの茶屋高のすべてを守れ! 以上だ。さ、皆さっさと木の前に並べ。撮るぞ」
 健の号令により生徒会員すべてが手際よくサッと並ぶ。背後にずっしりと座する桜の木は、見事な花を咲かしている。
 写真を撮り終えた後は各自勝手に歓談を始め賑わいだす。女性の集団はこの後に計画している卒業送別会の話題で盛り上がっているようだ。
 彩花も瞳と何か話しているが、屈託のない笑顔からするときっと明るい話題なのだろう。真は先輩すべてに挨拶をすると桜の木の方に目をやる。その根元には晶が腕組みをしながら立ち、その見事な花を見上げていた。
「どうした? 普段は花より団子だろ?」
 真の嫌味に晶は振り向いてベッと舌を出す。
「なんか考え事してたんだろ? 半年前の出来事か?」
「うん。まあね」
 晶は見上げたまま返事をする。
「あれから僕や小林さんの身にリピートは起こらなかった。結局、双姫の桜が原因だったということなんだろう」
「うん。それは間違いないと思う。ただ……」
「ただ?」
「彩花が最初リピートしてたとき、真は男女差で協力者を選別していると推理したでしょ? でも、あれはホントは違ってたんだと思う」
「どういうことだ? あの件は翌日検証もして確定要素だったろ?」
「うん、確かにあの時点ではそう推理するしかなかった。けど、双姫の桜という存在と、以前から真がその木に関わっていたという状況があったということになると違った推理が成り立つ」
 晶の推理に真は耳をかたむける。
「あたしが思うに、妹の木は、姉の木を助けようとしていた真を解決者として選んだんじゃないかな。彩花は槍方村で妹の木から助けを求められ、彩花の背後霊的存在で憑く。彩花の相談する相手によってリピートが発生していたのだから、背後霊的存在として常に彩花の動向を把握していたと考えて筋は通る。そして、茶屋高で偶然姉の木を助けようとしている真を知る。妹の木は自分と姉の両方を救う適任者として真にもリピートを課した。コレ、成り立つでしょ?」
「なるほど。でも、それなら協力者を選別なんてせず、協力者として相談を受けた晶をリピートにより否定する意味が分からないな。協力者が多い方が木が助かる可能性も高いだろうに」
「桜の気持ちまでは分からないけど、きっと、深い意図があってその上で選別してたんじゃない? 例えば、自然を深く愛する人で尚且つ頼りになる人物、とか。リピートという存在を考えたとき、最初は彩花を苦しめるためか守るためか、はたまた協力者を選別するためか、と考えてた。けど彩花のリピートの場合『協力者を多数獲得することにより発生するリスクを回避するためのリピート』という考えがしっくりくるとあたしは思う」
「リスクの回避。そうか、小林さんのリピートを利用して悪どいことを考える輩が出てくる可能性を配慮してのリピートって訳だな?」
 真のセリフに晶は人差し指を立てる。
「なるほどな、単純に考えて、リピートを賭け事とかに活用したら大変だし、その分、小林さんの身も危険になる。そう考えると、やはりリピートは小林さんを守るために存在したのかもしれないな」
「だね。それともう一つ、この情報の真偽は定かじゃないけど、二百五十年前に亡くなった姉妹の祖先と、彩花の祖先とは少なからず関わりがあったのかもしれない。じゃないと最初に彩花をリピートの解決者として選んだ理由が説明できない。あの桜の木が好きという理由だけなら他の村人でもよかったはず。彩花に血の繋りがあり、さらに姉の木のある高校に通っていた。妹の木にとってこれ以上の適任者はいなかったんじゃないかな。ま、もう済んだことだから今更なんだけどね」
 推理を語り終えた晶は、大きな伸びをしてからきびすを返す。満開に咲き乱れる桜の木の下で、真は颯爽と歩き去って行く晶を苦笑いで見送る。
 修復を完全に終え、咲きほこるその桜の木の根元には、木製の真新しい看板が存在する。その看板には白いペンキでこの桜の説明文が書かれてある。
 そして、そのちょっと変わった文面を考えた人物により、リピートは二度と起こることはなくなった。


『名称:双姫の桜(姉)
 江戸時代に存在した双子の姉妹の絆の証しとして植えられた桜。妹の木は隣県の小手川村付近に存在します。春に咲く双姫の桜を見ると記憶力が良くなるという言い伝えがあります。大事にしましょう。
by生徒会』


(了)
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