repeat
第3話

「なるほど、こういう状況か。つまり、彩花にとって今日のような説明をするのは三回目で、今日帰宅してリピートしてしまったらまた振り出しに戻るってことだよね?」
「ええ」
「ふむふむ、だいたいは把握できた。けど、いろいろと質問したいことがある。まずこのリピートのことをあたし以外の誰かに相談したことはある?」
「ええ、幼馴染みで先輩の深山さんにだけ話した。深山先輩は生徒会の役員だし晶も知ってると思う。リピートが始まったときは怖くて毎日深山先輩に話した。けど、話したときは必ずリピートをするの。だから、しばらくして諦めた……」
 彩花は辛そうな顔をする。リピートが始まってからの日数だけを考えれば一ヵ月だが、彩花の中では相当の期間を過ごしてきたに違いない。
「大丈夫、あたしに解けない謎はない。考えてみて、あたしは面識もなく普通に登校していた彩花の不思議な行動に気付いたんだよ? 絶対解決させられるよ、なんせ天才だから」
 ニコッと笑う晶に彩花も笑顔になる。
「ホント、晶は頼りになる。ありがとう」
「いえいえ。じゃあ話を戻して質問の続き。初めてあたしと話した日、月曜日ね。月曜日は何をきっかけにリピートの話しに持っていけたの?」
「月曜日は偶然だった」
「偶然?」
「晶も覚えてると思うけど、六組と七組の合同体育のとき、バレーボール用ネットの支柱が二本倒れた」
「ああ~、あったあった。確か奇跡的に誰も怪我人がいなかったよね」
「そう、二回目はね。でも一回目の月曜日は怪我人が出てたの」
「……もしかして、それって彩花?」
「さすが晶、当たり」
「じゃあ、二回目は彩花が支柱を避けたからあたしとコンタクトを取れなかったってことかな?」
「その通り。一回目の月曜日で受けた怪我自体は大したことなかったけど、ちょっと腕から血が出ちゃってね。周りの女子がオロオロする中、晶が冷静に対処して保健室まで連れていってくれたの。それがきっかけで晶にリピートの相談を持ち掛けたのが始まり」
「ん? もしかしなくても、怪我とか傷とか彩花の身体に損傷があった場合、リピートされれば無傷で前日に戻るんだよね?」
「ええ、記憶以外はリセットされ元通りになる。リピートのおいて唯一の救いみたいなものかもね」
「ふむ。概要の6で書いてあるけど、彩花から誰かに助けを求めた場合、まぁ今回の場合はあたしか深山先輩限定だけど。彩花の方から積極的に助けを求めて、リピートを説明したときはリピートが起こるっていうのはガチ?」
「ええ、これはまず間違いない。深山先輩に相談した件を含めて、月曜日に晶と話したのがその例。晶も含めて第三者に私からリピートの話をした場合はアウト、まずリピートする」
「つまり、今日みたいにあたしや第三者から彩花に接触した場合はリピートする確率が低くなるの?」
「それはまだ分からない。一回目の月曜日に晶と話したとき、晶は既にその推理をしてた。そして、一回目の木曜日の晶は可能性としてそれを挙げてた」
「ふむ、だからわざわざ回りくどいアプローチの仕方を取ってた訳か」
「でも火曜、水曜とは誰とも接触してないのにリピートは起こった。それについて一回目の木曜日、晶に聞いたの、すると……」
「リピートは第三者に説明するという条件以外に、他に発生する条件がある。その条件は彩花の行動パターンにあるかもしれない。って言ったんじゃない?」
 晶は彩花のセリフに先回りして言う。
「さすがね。晶はいつも晶だわ」
「どの日のあたしだろうと、あたしの天才さは変わらないからね」
 晶はニヤリとしながらパフェスプーンをくるくる回す。
「一回目の木曜日にそう言われて、さっき思い出せる範囲内で行動パターンを細かに書いてみたの。でも、私が推理した限りでは全く分からなかった。メモの三枚目にその内容を書いてるから見てみて」

【彩花の行動パターン】
 
・9月26日(月):連休開け最初の月曜日。その日、就寝し朝起きるとまた月曜日だった。この日が最初のリピートで、この月曜日は四回繰り返し、やっと火曜日に進む。

・9月27日~29日(火~木):リピートを全くせず、すんなり曜日が進む

・9月30日(金):再びリピートする。回数は一回。この日はアルバイトで棚卸し作業があり就寝時間が日付を回る

・10月1日、2日(土、日)とリピートする。回数は土曜日二回、日曜日一回土、日の連休で親戚の家に行く。帰りに車が脱輪する

・10月3日以降は記憶薄のため不明

・10月10日(月):リピートする。回数は三回。体育の日で祝日だが、学校で運動会

・10月11日~23日までは記憶薄。週に三回はリピートをしていた

以降は二枚目の内容通り


「ふむ……」
 三枚目のメモを読み終えた晶は腕組みをしたまま考える。プリンパフェのプリンだけをいつの間にか食べてしまっている。
「解決させるには、リピートが始まった原因とその法則を確立させるのが大前提。しかし、リピートしてしまうと振り出しに戻ってしまうから、何度も同じ手間が掛かるだけでなかなか進展しない。解決に手を付けようとするだけで、リピートによりリセットされるってところが一番のネックだね。リピートの初日、変わったことはなかった? 何か事件・事故に遭ったとか」
「いいえ、何も。前日の連休にお墓参りに言ったくらいかな」
「全然事件性がないじゃん」
 晶は珍しくパフェには手を付けず考え込んでいる。
「晶、悪いんだけど今から三分後くらいに母親から電話が掛かってきて帰らなきゃいけないの。何か聞いておくことや、私がやらなきゃいけないことがあったら言って」
「ん? う~ん、携帯の番号は……」
「メモ用紙の最後に携帯番号と自宅の電話番号、あと念のため住所も書いてある」
「だよね」
 晶は予想通りと思いながら、四枚目のメモ用紙を見る。彩花の住所の下には晶の携帯番号も書かれてある。
「つまり、何かあったらお互い連絡することは既に確認済みってことね」
「ええ、いつでも晶の指示で行動できるようにね。でも、また今日リピートしてしまうと無意味になる」
「かもね。けど、あたしが無意味にはしない。しないように頭を使う、それがあたしの生き方だから。だから、あたしを信じて頼っていいよ」
 晶はニコッとする。
「そのセリフは初めて聞いた。ありがとう」
 彩花はちょっと照れている。少ししたのち彩花の発言通り携帯に電話が掛かってくる。親しい言葉のやりとりから相手は母親なのだろう。
「おまたせ。大した用事じゃないんだけど、親戚が来てるから帰るね」
「了解」
「また、明日会えるといいね……」
「うん。けど、もし仮にリピートしたとしても、木曜日までのあたしは既に彩花を注目してるから、今日みたいに動いてくれれば大丈夫。あたしはどんな状況でも対処するし、彩花に協力するから」
「ありがとう、晶。じゃ、またね」
 彩花は晶に手を振って店を後にする。店内から居なくなるのを確認すると晶は少し考えた後、
「仕方ない、こうなったらワトソンを呼ぶか」
 と、携帯電話を取り出した。

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