repeat
第5話

 彩花は目を覚ますと、壁に掛かっているリラックマ時計を見る。針は五時半を指している。
(そろそろ新聞が来る)
 眠気を振り払って彩花は毛布から起き上がる。秋とはいえ朝の寒さは身にしみる。一階に降りて居間のストーブを着ける。この時間だと家族はまだ誰も起きて来ない。一番早起きである母親も六時にならないと起きて来ないのを彩花は心得ている。新聞が投函される音を確認すると、彩花は玄関に向かう。
 リピートを二日連続で繰り返していることもあり、新聞を手に取る瞬間は少し緊張する。

『10月27日木曜日』
 
 彩花の目には日付と共に見慣れた見出しや写真が移る。
(三回目の木曜日、晶の予想通りやっぱりリピートした)
 彩花は新聞をソファに置くと意を決して自室に戻る。そして、部屋の明かりを着けパジャマ姿のままで机に向かう。引き出しからメモ用紙を取ると彩花は今まで起こった出来事を順番に書いていく。二回目の木曜日に晶に見せた内容とほぼ同じだが、それに付け足す形で晶から指示された内容を書いていく。
(今は晶を信じてやるしかない!)
 彩花は覚悟を決めてメモ用紙にペンを走らせていた。



10月27日(木)AM11:00。
 彩花は敢えて遅刻をして教室に向かう。晶のネットルームからの観察と二時間目休み時間の廊下アタックを避ける為には三時間目から出席するしかなかったのだ。
 昨夜帰宅後、晶から連絡をもらい今後の作戦を聞いたとき彩花は正直不安を覚えていた。敢えて晶を外した作戦で本当にこの問題を解決できるのか。晶の頭の良さを目の当たりにしているからこそ不安であり、覚悟を決めてその指示に従うしかない。自宅で書いたリピートの報告内容を何度も読み返しながら、彩花は昼休みを待つ。


10月27日(木)PM12:55。ネットルーム内。
「春の行事に備えるためにも、早めに修繕すべきです」
 真はネットルームで生徒会の会長である矢吹健(やぶきけん)と生徒会活動について話し込んでいる。今課題となっているのは先月の台風で折れた桜の木の修復についてだ。
「うむ、確かにあの桜の木は樹齢も長く入学式や卒業式にも欠かせない場所だ。しかし、木の修繕となると生徒会の予算だけではどうにもならない。先生方には予算の点から撤去する案も出ているくらいだからな」
 健はモニターの画面を見ながら溜め息をつく。画面には建設会社と造園会社数社の見積もりが表示されている。今ネットルームには健と真の二人だけだ。
「仮に全校生徒に募金をしてもらうとしても、一人頭3750円の負担となる。募金をするにしてもとても現実的な金額ではないぞ」
「確かに、修繕費用は生徒会予算の約四倍ですからね。学校が負担を渋るのも致し方無しですね」
 真は困った表情で健と一緒に画面を見つめる。
「草加の意見は正論で俺もどうにかしたいのはやまやまなんだが、この件はちょっと時間がかかるだろう」
「ですね。あ、でも待って下さい。校長やOB会の後ろ盾があればなんとかなるんじゃ……、ん?」
 真の話を聞いていた健が視線を外しネットルームの入口の方を見ている。視線を追って見るとそこには一人の女子生徒が立ている。
「こっちを見ているみたいだが、草加の知り合いか?」
「いえ、初見の生徒ですね。会長こそご存じないんですか?」
「いや、ないな。手に書類みたいな物を持っているから生徒会に対する要望かもしれない。俺が行って聞いてこよう」
 健はスッと席を立つと女子生徒の元へ歩いて行く。二、三言葉を交わすと健はすぐに戻ってくる。
「何の用でした?」
「草加を指名のようだ。用件は言えないそうだ」
「えっ、僕ですか?」
「桜の木の件はOB会の案も含めて俺の方から打診してみるとしよう。じゃ、俺は先に失礼する」
 健は真を気遣うようにすぐに立ち去る。部屋を見渡し誰もいないことを確認してから女子生徒は真に近付いてくる。
「初めまして。一年六組の小林彩花といいます」
 彩花は丁寧におじぎをする。真も倣って挨拶を交わす。
「こちらこそ初めまして。僕は二年七組の草加真。ところで用件って何?」
 イスを勧めながら質問をする。彩花はそれに従い真に向き合う。
「不躾で申し訳ありませんが、お話をする前にこの用紙の内容に目を通して頂けませんか?」
「用紙?」
 真は差し出された用紙を反射的に取る。表紙には『リピートについて』とだけ書かれてある。真は不審に感じて質問する。
「あの、リピートって何のこと?」
「リピートとは読んだとおりの意味です。取りあえず最後まで読んで頂けたら分かってもらえると思います」
 しっかりとした受け答えと表情から、悪戯ではない真剣さが伝わってくる。真は素直に表紙をめくり内容に目をと通しはじめた。


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