赤に染まる指先
朝がきてもこの部屋は清々しい朝日がカーテンで遮られて薄暗い。

朝が来たことは分かるのだけど、目を開けると現実が広がってるって分かってるから目は開けたくない。

ベッドから降りれば現実が襲ってくるって分かってるから降りたくない。


体はベッドに挟まったまま、ベッドに放り投げたスマホを拾い上げて適当に情報を見る。

別に見なければならないほどの情報なんてないのだけれど。

もうほとんど癖だ。

自分ではどうしようもできない。


どうにかしようとさえ思わない。


それすら、面倒くさい。


まるで人形みたいだと、人は言う。


魂がなくなったみたいだと言われたこともある。


それはきっと間違いじゃない。


だって私の魂は、あの人が、あなたが奪ったの。


奪って、壊して、ボロボロになるまで踏みつけたの。


もう、どこにあるかなんて分からない。

見つけてもきっとぐちゃぐちゃで、元通りになんてならない。


ガラス窓のひびだって綺麗に治ってくれないし、こぼれた水はコップには戻ってくれないし。


でもだからって新しいガラス窓や水じゃ意味がない。


それはひびの入ったガラス窓とこぼれた水とは別物だから。


別物なら、いらない。


虚勢で作り上げた偽物の魂で代替するくらいなら、私は人形になってしまった方がずっといい。


あなたが奪い去ってしまったその虚無感にすがりついていたい。

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