ifの奇跡
新しい年
新年を1人寂しく実家で迎えた私は、毎日母の病院に足を運んでいた。

ペーパードライバーだった私も今ではすっかり慣れたもので、母の愛車を乗り回す毎日だ。

とにかくここでは1人1台が当たり前で…車の運転ができないなんて甘えたことは言っていられなかった。

ここでは、だれも助けてくれる人なんていないんだから…。

頼れるのは自分だけだった…。


冬吾も大学を卒業し、今は新入社員として忙しい日々を送っているようだった。

冬吾とはあの大晦日の日から一度だけ会った。

3月の卒業式前に、一度だけ会いに来てくれた。

卒業と同時に研修が始まる冬吾とは、ここを逃せばしばらくは会えないだろうと覚悟していた。

2泊3日の幸せな時間はあっという間に過ぎ去ってしまったけれど…私にとってはすごく幸せな時間になった。

冬吾の仕事は、テレビ関係の番組制作に関わる仕事で、休みも勤務時間も普通のサラリーマンとは違い不規則なもの。

だから、頑張っている冬吾を応援していた私から連絡をするといえば主にメールばかりになり電話をかける事はほぼなかった。

声が聞きたいと思うこともあったけど、寝ているかもしれないと思うとどうしても電話をかける事を躊躇っていた。

冬吾の声が聞けるのは、彼からかかってくる電話の時だけ…。

時々すれ違ってしまうこともあって彼からの着信が残されているのを見ると、嬉しい気持ち以上に寂しくて会えない距離がもどかしくて切なくなった。

遠距離恋愛の何とも言えないやるせなさが私の心を覆っていく…。
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