不思議な眼鏡くん
店内に入ると、コーヒーの香ばしい香りが鼻を刺激した。

ほっとする。

「今日は、激甘のでもいいかも」
メニューを見上げて考えていると、「コーヒーブレイク?」と声がかかった。

振り返ると、響がいる。

「おつかれさま」
ポッと心に灯がともる。

「咲さん、すごい嬉しそうな顔してる」
「え?」
咲は思わず自分の顔を触った。

響が笑う。
「かわいいなあ、もう」

「俺も、飲む。ブレンドのショート、お願いします」
レジのスタッフに声をかけた。

咲も頼まれたものと、自分のためにはキャラメルたっぷりのコーヒーを頼んだ。

二人並んで、会社への道を戻る。

たった、五分。距離が短すぎる。

咲はちょっとがっかりした。

「あ、そうだ!」
咲は響を見上げた。

「へんなところで、ちょっかい出さないでよ」
「出してないよ」
「だって、わざとだよね。会議室で『激しいな』とか」
「率直の感想を言ったまでで」

しれっとそんなことを言う。

「そもそも、片付けておいてくれたら……」
咲はついそんなことを言ってしまった。

「わあ。どの口が言ってる?」
響が眉を上げて咲を見下ろした。
「失神しちゃった誰かさんを、運んだのは俺ですよ」

咲はぐっと詰まる。

「半裸だったのを、わざわざ服を着せて、担ぎましたけど。重かった」
「重い、言うなっ」
響の脇腹を軽く殴った。

響が笑う。

その声も、笑顔も、全部愛しいと思うから、不思議。
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