不思議な眼鏡くん

「鈴木主任、これ大丈夫ですか」
響が書類を差し出した。

咲はざっと目を通して「いいわ、稟議書いて」と答える。

「わかりました」
響はそう言って、作業を始めた。

会社で馴れ合うことはない。プライベートと仕事をしっかり分けていた。

響の気持ちがわからない間は、振り回されて頭を占領されて、全く仕事に集中できなかったが、思いが通じあった今は、むしろ効率が上がった。

愛されて、満たされて、毎日が本当に幸せだ。

「じゃあ、外行ってきます。このまま会社には戻りません」
響が立ち上がる。

「いってらっしゃい」
咲は笑顔で送り出した。

響がいなくなると、ちづが「最近、田中くんもちょっと角取れてきましたね」と言った。

「相変わらずそっけないぞ」
樹が異論を唱える。

「それでもメガネをかけてたころよりは、ずっと喋るようになったし。会社でもたまに笑顔見せますよね」
「そうか?」

樹は納得いかないというように首をかしげた。

しばらく黙って仕事に集中する。すると、咲のスマホにメールの着信。

スライドして表示すると「今夜、俺の部屋」と入っていた。

すばやく「オッケー」と返す。

咲の口元に、自然と笑みが浮かんだ。

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