不思議な眼鏡くん
「芝塚課長は、抱いてくれないよ。あの人、奥さんいるから」
「わかってますっ!」

思わず声を荒げた。

咲の肩に、響の肩が触れる。ビクッと身を引いた。

いつのまに、こんなに距離が縮まって……。

「ずっと、このまま? 気を張って、男を寄せ付けず、強いふりをして、生きて行くの?」

咲は唇を噛み締める。

ああ、どうしてこの人は、こんなにも胸をえぐるような言葉をいうんだろう。

さも、楽しそうに。


突然、膝の上にあった右手を掴まれた。とっさに振り払おうとしたが、ぐっと押さえ込まれた。

熱い手のひら。
想像もしなかった、骨ばった指。
食い込むほどに咲の指を握りしめた。

響が固まる咲に顔を寄せる。覗き込む瞳と甘い日本酒の香り。

「俺が、鈴木さんの、初めてになろうか」

すべてが停止した。
時間が。空間が。咲の心臓が。

「なりたいな」
甘えた声が、耳に響いた。

響の唇が、咲に触れる。
本当に触れただけなのに。
びりっときた。
感電したみたい。

「ああ、キスも初めてだったか」
響は笑った。
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