不思議な眼鏡くん


考えれば考えるほど、響の周りには不可解なことがあふれていて、咲の中に漠然とした不安が降り積もっていく。

ホテルの開けられない鍵。
突然起動したパソコン。
部長のはじけたグラス。

わたしがグラスで腕を切ったら、あの人『ごめん』って言った。

なんで謝ったの?
自分でグラスを破裂させたからじゃないの?

決算に向けて、仕事はドタバタと忙しい。咲にとってはそれがありがたかった。響を避ける理由になるから。

「今日も、行けない。ごめんね」
そうスマホでメールを打って、咲はほっと息をついた。非常階段の踊り場に座り込んで、咲はスマホ片手に頭を抱える。

あの人に直接理由を聞けばすむ話なのに。
なんでわたしは聞けないんだろう。
もし信じられない理由がそこにあったら。

「まさか」
咲は頭を振る。

きっと説明がつくはず。

このままずっと響を避け続けることはできない。メールでのやり取りは普通だが、隣に座る響のオーラに違和感があった。

咲が響を避けているのに気付いてる。

咲は一つため息をついて、立ち上がった。

「ちゃんと聞こう」
そう呟いた。
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