不思議な眼鏡くん
一人で先方に謝りにいく。課長にも他のチームのメンバーにも何も言わず。自分一人のミスだからと言って。それでことが丸く収まるかどうか……でも、それしかないのだ。

咲は廊下を早足で歩く。今度はうつむかず、胸を張って自信があるように。咲は営業部の部屋に入ると、平静を保とうと深呼吸をした。

失敗を見せることはできない。咲は、この営業第二課の一チームを任されている、主任なのだから。

都心の高層ビルの三十二階。青い空の色が広いオフィスを明るく照らす。

ここは大手アパレル会社。競争の激しいこの業界において、常に売り上げを伸ばし続けている優良企業。

オフィス手前のシマが、営業二課の席だ。大きな窓を背に芝塚課長が座っているのが見えた。清潔感のある髪型に、ブルーのネクタイ。彼が課長の職についてから、営業二課の成績がぐんと伸びた。

心臓が冷える。

咲は無言で自分の席に座った。チームの三人が顔を上げて咲に視線を送ったが、再びパソコンの画面に向き直った。咲が来たとたん、緊張した空気が漂う。

咲はポケットからそっと折りたたんだ改善要望書を取り出し、机の引き出しに入れた。

今日中に、カタをつける。

咲は気付かれぬように小さく息を吐くと、先方にアポイントをとるためのメールを書こうと、キーボードに手を置いた。
< 2 / 165 >

この作品をシェア

pagetop