不思議な眼鏡くん
「助かった」
心からの声が出た。「ありがとう、田中くん」

「俺は何もしてませんけど」
「そう、かもしれないけど」

咲は椅子に座ったまま響に向き合った。

「まだ仕事残ってるんでしょ? 手伝おうか」
「残ってないですよ」
響は答えた。

「ん?」
咲はわけがわからない。

じゃあなんで、会社に戻ったのかしら。

「横山さんと食事に出るって言ったら、鈴木さんが不安そうな顔をしてたから」
響がくるっと椅子を回転させて、咲と膝をつきあわせる。

膝が軽く触れて、咲は思わず椅子を引いた。

「き、気のせいだと、思うけど」
あっという間に響の雰囲気にのまれた。昨晩のことがまざまざと蘇る。

「そうかな。俺が横山さんをホテルに誘うかもって心配したでしょ」
「違います」
咲はどうにか先輩の威厳を保とうと、強く否定した。

「だって今日、ずっと俺のこと意識してた」
響がさっと腕を伸ばして、咲の手を握った。
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