不思議な眼鏡くん
正直に言えば、本当に嫌だ。
ただでさえ男性としゃべるのが苦手なのに、酔っ払いのエロおじさんをあしらうなんて、そんな高度なテクニックを持っているわけがない。

けれど、坂上部長の隣で捕まっている女の子は、今にも泣きそうだ。

助けてあげなくちゃ。

「ああ、キタキタ、鈴木くん」
咲の姿を認めた坂上部長は、最高にご機嫌になった。女の子の腕を離して、手招きする。

「お酌しますね」
咲はそう言うと、さっと女の子と坂上部長の間に割って入った。

「席、もどって」
小さく言うと、女の子は頭を下げた。心からほっとした表情をしている。

「鈴木くんがついでくれると、ビールも五割増しでうまいな」
咲の顔から目を離さない。とろーんとした表情をしている。

「ありがとうございます」
咲は嫌悪を見せぬよう、静かに微笑んだ。

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