不思議な眼鏡くん

「なんか、びっくりしたな」
宴会場を後にして部屋に戻る途中、樹が言った。「おばけかな」

「それっぽかったよね」
咲も身を震わせた。

あの後すぐ、お開きになった。突然の現象にすっかり酔いの醒めた坂上部長が退席したので、社員もなんとなくその場を後にしたのだった。

「建物は新しいけど、古い旅館だもんな。なんかあるのかも」
樹が言う。

「えー、怖いこと言わないで」
おばけの苦手な咲は、自分の腕を抱いた。

「部屋帰って、鏡の裏とか見てみなよ。お札あるんじゃない?」
「やだっ」

本気で怖がる咲を、樹が指差し笑う。

「外出るだろ」
エレベーター前で樹が尋ねた。

「うん。でもその前にもう一度お風呂行っていい? さっきグラスが破裂したとき、ビール浴びちゃって」

到着したエレベーターに乗り込みながら話す。

「じゃあ、一時間後にエントランスで」
「わかった」

宿泊階が違う樹が先に降りる。

扉が閉まるとひとりきり。とたんに心細くなる。

やめたほうがいいに決まってるけれど、部屋に帰ったら鏡の裏とかお札を探しちゃいそう。

「やば」
咲はつぶやいた。
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