不思議な眼鏡くん

響とちゃんと話をする勇気もないまま、クリスマス当日になった。

夕方五時。
咲のチームはまるでお通夜のように静まり返っていた。

「鈴木、いいか?」
芝塚課長から声をかけられた。

「はい」
咲は立ち上がると、重苦しい席を小走りで離れる。

あの席にいつづけるのはつらかった。

「鈴木、これ」
芝塚課長の席の前に立つと、ポンと机の上に書類が置かれた。

「出店計画書、これでいけると、本当に思ってるのか?」
芝塚課長がちょっときつい声でいった。

咲からサアッと血の気が引く。手にとって確認すると、明らかに咲のミスで、大幅な再調整が必要だった。

「申し訳ありません」
咲は書類を手に、深く頭を下げた。

芝塚課長のため息が、頭上から響く。

「どうしたんだ、鈴木」
「すみません」
「こんなミス、注意力がないとしか言えないぞ」
「はい」

芝塚課長が腕を組む。

「最近、心ここにあらずに見える。何か、悩みでもあるのか?」
「いえ……」

床から無数の腕が伸びて、咲の足を掴んで引っ張り込もうとしている感覚に陥る。このまま引き摺り込まれたら、もう二度と浮上してこれない。

「もし何かあるなら、遠慮なく相談してくれ。そのため俺なんだからな」
芝塚課長が慰めるような声で言った。

「とにかく、今日中になんとかしてくれ」
「はい」

咲は書類を手に、自分の席に戻った。

心配そうな顔の樹と目があう。
「大丈夫か?」
「ちょっとミスしちゃって。でも大丈夫」

咲は精一杯の笑顔を返して、目の前の仕事に取り掛かった。
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