行雲流水 花に嵐
「イヤァッ」

 鋭い気合と共に、仙太郎が踏み込んだ。
 先程よりも速く、木刀が振り下ろされる。

 攻撃は同じでも、油断していた先程とは、速さも重さもまるで違う。
 片手でなど、とても弾けるものではない。

 貰った、と思った途端、仙太郎の視界から宗十郎の姿が消えた。
 目を見開いた仙太郎の剣が空を切ったとき、水月に強烈な一撃が入り、仙太郎は後方に吹き飛んだ。

 宗十郎が、突きを見舞ったのだ。
 頭上に来る剣を恐れず相手の懐に飛び込むという、およそ常人には出来ない技だ。
 しかも、動いたのは目に見えなかった。

「うっ……げほっ……ぐぅっ……」

 胃袋の中のものを吐き散らかし、転げまわる仙太郎に、正妻は我を忘れて駆け寄った。
 そして口汚く宗十郎を罵る。

「せ、仙太郎! この鬼が! 上月の跡取りに何ということを! これがお前の本性か! 人殺しめ!!」

 半狂乱で喚く正妻を冷やかに見、宗十郎は不意に足を上げると、正妻を蹴り飛ばした。
 いまだ転がって呻いている仙太郎のすぐ横に屈み込み、先程打ったばかりの水月に、木刀を押し付ける。
 仙太郎の顔が、恐怖に歪んだ。

「殺されなかっただけでも、ありがたいと思え。この能無しが」

 低く言い、立ち上がると、宗十郎は縁側で呆然としている父親に目を向けた。

「お暇頂きます」

 それだけ言い、その足で、宗十郎は上月家を後にしたのだ。
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