「え?!吉田屋から遊女を?!」

「そうです。」

助ける女の人の店が吉田屋だと聞くとはじめさんは顔を青くした
「それで?勿論土方さんは付いてこられるんですよね?」
私が首を横に振るとはじめさんは頭を抱えた、暫くそのままでうーんと唸りながら頭を抱えてそれからわかりましたと協力を約束してくれた。
条件付きで、その条件は
「土方さんを口説き落としてください。流石に俺と櫻さんじゃ難しいです。」
土方さんに協力してもらうこと。
でも、あの頑固で柔軟性のないカチコチ頭が協力してくれるとは到底思えない
どうしたらいいのだろう。
私に出来ることがあるのだろうか
「父上、お力添えをお貸しいただきたいのですが。」
父上に何とかしてもらおうとは考えていない、何か助言を頂きたいのだ。
「おお、珍しいな。例の件か?出来ることなら何でもするが」
父上の優しい言葉に甘える事にした私は遠慮なく本題を告げた
「土方さんにご尽力頂きたいのです、が「彼奴がそうすぐすぐ頷くとは思えんな」

流石は父上だ、直ぐに理解されるとは。
「櫻、お前が素直に頼めば聞いてもらえるはずだ。無論からかわずにな」


「…っ、ですが!あの方は私の言葉などでは「お前の頼み、それを素直にお前の口から伝えれば聞くさ。」
父上はそれだけをいうと私の頭を子供をあやす様にくしゃくしゃと撫でると仕事に戻って行ってしまった
【助言を頂きたい】などと垂れていたがきっと私は何処かで父上に甘え過ぎていたのだろう。

ダメだな

折角父上にありがたい助言を頂いたのだ
土方さんに真剣に相談する他あるまい。
土方さんの部屋までの廊下は無駄に長く感じた、軋む古い床に緊張から出たため息を漏らした。
「土方さん、いらっしゃいますか。」
一言言うだけだと言うのに口は震えた
いつも見廻りも一緒に行っているから慣れているはずなのに何故だか緊張が止まらない
今にも逃げ出してしまいたいくらいだ
「櫻か、入れ。」
偉そうに、いつもだったら言える台詞も全く出てこなくなった。
「失礼します。」
障子を開ける手はかつて無いほどに震える、土方さんは机に向かって書類整理に追われているのか何かしたままこちらをちらりとも向かない
いつもの事なのに何故か緊張が高まって心臓がばくばくと大きく音を立てる
もし、断られたらどうしようとか
もう二度と話せなくなったらどうしよう
なんて女々しい考えが頭を巡る
こちらから頼み事なんか一度もしたことが無いからだ
そんな事を考え何も話さない私を不思議に思ったのか土方さんは筆を置きこちらに向き直った
「どうした、櫻。用があるから確認を取ったのじゃないのか。」
全てお察しの通りなのですけど、なんだか声に出ない
こういう時は深呼吸して、落ち着け。
あの女の人の為だ。
「ひ、土方さんに折行って頼みがありまして…」
改まった言い方に土方さんはこちらをきちんと見てなんだと口を開いた。
「…ああの女の人の依頼、手伝って頂きたくて、」
その言葉に吹き出した土方さんは珍しく声を出して笑った
あぁ、失敗した
ごめんなさいはじめさん、女の人。
「お前だけで行かせられる筈ないだろ」
そう言って土方さんは私の方へ歩くと父上の様に頭をくしゃくしゃと撫でた。
その言葉一つで緊張が一気に溶けた、土方さんの事だから絶対断ると思っていたが存外良い人なのを忘れていた。
「ありがとうございます」
当たり前だと笑うこの人は凄く魅力的に見えた
ま、まあ、これではじめさんにも手伝って頂けるし一安心だ。
はじめさんにこの事を伝えると良かったですねと笑ってくれた
はじめさんは優しい人だ。
そうと決まれば動かない理由は無い。
早速捜査開始だ。
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