3.久しぶりの非番



あの一件から一月、めっきり秋も深まり羽織物が手放せなくなる季節
桜田町は至って平和だ。
紅葉を観ながらの団子がここまで美味いとは知らなかった
「最高だなあ、」
久しぶりの非番、街をぶらりぶらぶら
足の向く方へ気ままに出て見たが見廻りでは分からないことが沢山ある
団子屋の娘はお見合いをしたらしい
その娘の相手が随分偉い方で店主は大層喜びすぐ様結婚と急いでいたらその娘が泣きながら拒否をしたそうで、今喧嘩をしているらしい。
「全く親不孝な娘だ」
「でもそんな娘さんが可愛くて仕方ないんでしょう?」
「…まあ、そりゃあ娘ですから。」
そんないい家族なら早く喧嘩が終わって欲しい、折角のこんなに暖かい家族なのだから。
「早く仲直り出来ると良いですね。」
頷く店主に満遍の笑みを浮かべ店を後にした、気の向くままに出たばっかりに行く宛もなくふらふらと歩いているとまた新たな茶屋を発見。
取り敢えず入り献立表を眺める
おしるこ、抹茶だんご…変わったものは人参団子というものがある。
にんじんを使っているのだろうか、美味いか不味いか人参嫌いの私には不味いに決まってる「人参団子ひとつ下さい」好奇心が勝ってしまった


「お待たせしました」
出てきたのはまるでただの団子
味は意外と美味い、人参のシャリシャリ感がない
臭みもない、独特の甘味もない。
人参の香りがする普通の団子みたいだ。
うまい。
その後4つ食べて四銭五厘は安いかもしれない

鼻歌交じりに店を出てまたぶらりぶらぶら歩き出す
ふと目に付いた店に入る
和紙や封筒、便箋等が売っている今で言う文房具屋のようなもの
「娘さんどうです?偶には親御さんにお手紙なんて。」
気まぐれで便箋と封筒を買う、ただの気まぐれ。私に親は、手紙を書くような親は居ないから
「ありがとうございました〜」
店主の言葉が響く中私は電柱に貼られた祭りの案内に目を取られていた。

忙しくなりそうだ
祭りといえば祭囃子に合わせてテキ屋が抗争を始める、少し嬉しいのはおかしいだろうか。
同心として規律と秩序を正すのは大義だと思う
楽しみだ。
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