3.5.番外編




今日は櫻が非番の日、少し肩の荷物が降りる日だ
「土方さん、こちらの書類に目を通して頂けますか?同心全員に配るので」
こういう物が何故俺の元へ真っ先に届くのか、目を通さなければならないのか
それは俺らの大将が子煩悩で仕事に身が入らないのも理由の一つだが重役を担っているのも理由に成るのだろうか。
受け取った紙に目を移す、もう直ぐ祭りなのだと気付かされる
祭りは同心としては憂鬱な物だ、テキ屋同士の騒動や調子の上がった餓鬼共が女子供を攫う等大変な事ばかり起こる
だが一般市民としては楽しみの一つだ
鮮やかな花火が上がり浴衣に身を包んだ艶やかな頬が照らされ紅く染まる、女が一層綺麗に見え惚れざるを得ない
只今戻りましたという障子の向こうから聞こえる櫻の声に現実に戻される
どどど
大きく聞こえる足音はお頭の足音だろう
珍しく直ぐに無くなった音に驚きながらも先程の書類に訂正を加える
大量の書類が来る前に頼まれたものを先に終わらせて置かなければと肩につい力が入る。
それから稽古も頼まれていた筈、少し遅れるが一応道場に顔を出そう。
忙しく袴に着替える
久しぶりの半日非番なのだから満喫したかったがこれで良かったのかも知れない
行く場所なんぞ墓参りしかないのだから
櫻の部屋の前を通り過ぎると思い切り開いている障子に動かない背中を見つけ恐る恐る近寄る
前にも一度同じような事があり、その時は寝惚けて切りつけられた
俺も大概懲りないやつだ。

机に突っ伏しすうすうと眠るこいつの手には書きかけの手紙
宛名を見て少し嬉々とした、此奴にも子供な場面が多少残っていて刀を下ろす所があって。

障子を閉め俺は再び道場へ行くため足を勧めた
きっとその顔は綻んで居ただろう。
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