キミノテノヒラノウエ。
夕方、タクシーに乗って両手に大きな紙袋を持っておりる。

マネージャーが焼き菓子もタップリ持たせてくれたのだ。

やれやれと病室を訪ねると、
楽しそうな笑い声が聞こえた。

桜井先生だ。

薫ちゃんと仲よさそうに笑いあってある。

同期…だもんね。

仲が良くて当たり前。

なんで、こんなにドキドキと心臓がいっているの?


私がドアのあいた部屋の前にたっていると、

「てまりちゃん。」と桜井先生が見つけて、手招きしてくれる。

私は笑顔をつくって、

「こんにちは。お邪魔します。」と言うと、

「早かったな。てまり。どうした?」と薫ちゃんが顔をしかめる。

…邪魔…だったかな

「あの…マネージャーが早退していいって、営業してこいって、お菓子持たせてくれて…」とつっかえながら言うと、

「やったあ!
gâteau Kazamaの『美咲』つてケーキ?
一度食べたいって思ってたのよ。
売り切れでなかなか食べられないんだよー。」と桜井さんは嬉しそうに笑った。

「たくさん持たせてもらいました。
みなさんでどうぞ。」と言うと、

ケーキの箱を1つ持って、

「部長に渡してくるね。」と笑い、病室を出ていった。

薫ちゃんは私がケーキを冷蔵庫に入れていると、
「チビスケ、なんかあったか?」と私の顔を覗き込む。

「な、なんにもないよ。」と言うと、ベッドから降りて、私をグイッと抱きしめ、

「どおした?」と真面目な顔をした。

「…薫ちゃん、…桜井先生と仲良しだなって…」

「チビスケ、ヤキモチか?」とクッと唇の端を上げて微笑み、
「チビスケも一人前になったな。俺の女関係が気になるなんて…
桜井は同期なだけだよ。
それに、アイツは付き合ってる男がいるし、
俺はアイツをオンナと思ってない。」と私の耳を甘噛みしてくる。

すごくくすぐったくて、ゾクゾクする。

「もう、いいよな。
本気だしても…。
もう、俺も我慢出来ないし」と囁いてから、私を見つめて、唇を重ねてくる。

深くて甘いキス。

「病人は大人しくしろ。」と声が聞こえて、薫ちゃんはゆっくり私の唇を離す。

野村先生と桜井先生だ。

私は顔が真っ赤になる。

「ひとの恋路を邪魔すると地獄に落ちるんじゃなかったっけ?」と薫ちゃんはドアに顔を向けて笑った声を出す。

「馬に蹴られるんじゃない?」と桜井先生が笑い、
「いや、舌を抜かれるんじゃないか?」と野村先生がわらった。

「それは、嘘つきがされるんだろ。
まあ、野村先生は抜かれそうだけど…」と薫ちゃんが笑うと、
「ひでえ。俺は嘘つきじゃないとおもうけどぉ?」と野村先生がクスクス笑って2人が病室に入ってくる。

「てまりちゃん、聞いて、部長にコンクールで優勝したケーキです。って言ったら、
ケーキ全部取られちゃった。まだある?」と桜井さんが情けない顔をする。

「た、たくさんあります。」と私は薫ちゃんから離れ、冷蔵庫の前に立つ。

「ふたりとも、ラブラブー。」と桜井先生が私に笑いかける。

「それって死語だろ。」と薫ちゃんはフンと鼻を鳴らした。
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