イケメンなんか大嫌い

悪態をつかれない方がそりゃあ良いのだが、違和感が大き過ぎてむず痒い。
これまで対応して来た“エクスプレスの市川さん”と同一人物なのだから当たり前かもしれないが、最早“憎たらしい幼なじみの俊弥”としか見えなくなったのかもしれない。


30分後に再度電話が掛かって来た。

『事務所移転するそうなんで、変わったみたいです』
「そうですか、ではこのまま進めさせて頂きますね。ありがとうございます。また進捗をご報告させて頂きますので……」

『香坂さん』
「はい」

名前を呼ばれたので続きを待ったが、少し間があり、何故か心音が大きくなって来た。

『……またお会いすると思うんで、公私共によろしくお願いします』

予想外の次の言葉に、一瞬フリーズしてしまう。
わたしは戸惑いを感じながらも、口に出した。

「……もうお会いすることないんじゃないですか?」

すると電話の向こうで、ふっと笑ったような声を感じた。

『……では、失礼します』

受話器を置いた手元を暫し見つめる。

何か柔らかそうな物腰で喋っているが、また会うって……何のつもり? 気持ち悪いな……。
何を企んでるんだ? こいつ。

小さく深呼吸をして、動揺して来た気持ちを落ち着かせようと試みた。

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