レンタル彼氏–恋策–

 そう。大丈夫。昭の声を聞いても顔を見ても、最近は何も感じなくなってきてる。だけどやっぱり、私達が別れる理由になった昭の彼女のことは、気になって仕方なかった。

「矢野さんはよく頑張ってくれてるよ。卒業後も社員として働いてほしいくらいだ」

「ありがとうございます。店長や皆さんが良くしてくださってるおかげです」

「色々大変かもしれないけど、よろしく頼むよ。君なしでは店が回らないから」

「頑張ります。失礼します」

 店長との会話を新人に聞かれているとは思わず、その後すぐ着替えのため更衣室に行った。先に着替えをすませ更衣室のロッカーにもたれていた女の子の顔を見て、私は凍りつきそうになった。

「紗希ちゃん……!」

 昭の今の彼女って、紗希ちゃん?じゃあ、紗希ちゃんにとって凜翔は何なの?二人は付き合ってるんじゃなかったの?昭とはいつから知り合いだったの?

「そんなこわい顔しないで下さい。今日からよろしくお願いします」

「ご、ごめんね、そんなつもりなかったんだけど、こちらこそよろしく。私でよければ何でも訊いてね」

 不安で高鳴る心臓を無視し、普通の挨拶をした。大丈夫。今までも新人の教育係を任されることはあった。その相手が紗希ちゃんでも、仕事内容は変わらない。平常心、平常心だ。
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