レンタル彼氏–恋策–

 早くここから出て仕事をしたい。急いで着替えをしていると、紗希ちゃんは先日のように威圧感たっぷりに言った。

「矢野さんって色気ないのに男たらしなんですよね。店長にまで可愛がってもらってるし、凜翔にも気にかけてもらって、大学でもモテる人とすぐ別れたってウワサになってますよー?」
「……」
「昭も言ってましたよ?矢野さんといてもつまんないって。可愛いけどそれだけの女だって。もっと早く私と出会いたかったって。そうですよね。どう見ても私の方が上ですもん」

 モデルやアイドルみたいに可愛い紗希ちゃんの言葉にはとてつもない破壊力があった。平常心もすぐに崩れる。昭とは嫌な別れ方をしたけど、それでも大事にしたいと思う瞬間もあったのに、紗希ちゃんの言葉はそういうのを全て汚していくだけだった。

「凜翔も言ってましたよ。レンタル彼氏やってるせいで矢野さんが勘違いしてしつこく連絡先聞いてくるって。それホントですかー?昭と別れたばっかなのにがっつきすぎじゃありません?そこまで飢えてるんですか?」

 頭が真っ白になった。信じたくない。昭はともかく、凜翔はそんな人じゃないって信じたかった。

「紗希ちゃん、どうしてわざわざそんなこと言うの?凜翔はそんなこと言わない。言う人じゃない」

 なかば自分に言い聞かせるようにそう言うのが精一杯だった。

 紗希ちゃんの言葉にのみこまれそう。ただでさえ、私は凜翔のことをほとんど知らない。紗希ちゃんの方が凜翔のそばにいる時間が長い。だからーー。
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