レンタル彼氏–恋策–

 にしても、スタッフになれたらなれたで、その後も色々大変そうだ。

『・スタッフとお客様の交際が発覚した場合、スタッフは店に違約金50万円を支払うこと。』

 50万円!?高いと思った自動車学校の授業料より高いっ!

 知らなかった。凜翔がこんな契約を背負っていたなんて……。

 あらかた調べ終わる頃、ものすごくグッタリしていた。レンタル彼氏、恐るべし。深入りするもんじゃないな。娯楽の一種だと割り切れる人しか利用しちゃダメだと思った。

 明らかに、私は割り切れない側の女。

 これを機に、凜翔とのことはキレイさっぱり忘れよう。色々あったし、ドキドキしたし、優しくされて幸せだったし、楽しい思い出ばかりだけど、忘れよう。



 それから1週間。凜翔とは一度も会うことはなかった。同じ大学だと確認したのが幻だったんじゃないかと思える。

「お疲れ。休み時間、また一緒だな」

「なんだ、昭か」

「もー、この前のこといつまで根に持ってんだよ。許せって。な?」

 この前、大学のカフェで昭のウソが分かって以来、バイト先でも最低限の会話しかしないようにしているのに、それに気付いている昭は学内で私と会うたびわざとかまおうとしてくる。今日も一人校舎内のベンチで座っていると声をかけられた。

「大学変えたいかも」

「んなこと言うなよ〜。冷てえな」

「誰のせいだ」

 言葉ほど怒ってもいないし、昭の登場に今さら動揺したりもしない。同じ学部だし、付き合ってた時に時間割も合わせていたのでこうして空き時間が重なるのも仕方ない。

 だけど、それとは別の意味で、私は動揺せずにいられなかった。昭の声を、一瞬凜翔のものと聞き間違えてしまったからだ。こんなところに凜翔が現れるわけないのに!

 動揺したのは、そのことだけじゃない。昭を前にしても何とも感じない自分に気付いたからだ。まっすぐ優に行けないくらい大好きだったはずなのに……。
< 71 / 165 >

この作品をシェア

pagetop